2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J05639
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
加藤 健太 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | ナノカーボン / 多環芳香族炭化水素 / ヘリセン / 多重ヘリセン |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘリセンは、芳香環がオルト位で縮環したらせん型π共役系であり、動的ならせん反転挙動やキラル光学特性を有する化合物群である。その中でもπ共役系に複数のヘリセン構造を含む『多重ヘリセン』は、円偏光発光特性の向上(J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 5555.)や特異な分子集積様式(J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 7763.)を示すことから近年注目を集めている。今回我々は、5回対称性をもつはじめての多重ヘリセンである5重[6]ヘリセンの合成に成功し、5重[6]ヘリセンのラセミ化障壁について実験および計算の両面から解析した(Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 1337.)。5重[6]ヘリセンの合成は、5つのクロロ基をもつ前駆体を原料として、パラジウム触媒をもちいた脱塩化水素を伴う環化反応によりおこなった。X線結晶構造解析から、5重[6]ヘリセンがらせん不斉のそろったプロペラ型構造であることを明らかにした。さらにキラルHPLCによって5重[6]ヘリセンの不斉分割に成功し、ラセミ化速度からその障壁を算出した。これはDFT計算によって見積もられた値と良い一致を示したことから、律速段階は5つのヘリセン構造のうちひとつ目のらせん反転の段階であると示唆される。また、5重[6]ヘリセンのラセミ化障壁は[6]ヘリセンの値と比較すると若干低く、これは中心のコラニュレン骨格の歪みがらせん反転を容易にしているためであると考えられる。また、5重[6]ヘリセンの蛍光・吸収および円二色性も光学測定により明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度、本研究員は研究計画に基づき積極的に課題に取り組み、予想を超える成果をあげている。具体的には、新たな巨大湾曲炭素分子として、C5対称性を有する5重の[6]ヘリセンの合成と単結晶X線構造解析に成功している。5重ヘリセンは、市販されているコラニュレンをビルディングブロックとして用い、CH活性化を含む短段階で合成した。さらに、この5重ヘリセンの各種光学測定により物性解明を行い、さらに実験と量子化学計算の両面からヘリセンの異性化経路の解明に成功している。この成果はAngew. Chem.誌にすでに発表されており、Hot paperとして選出されている。 最近では、巨大湾曲分子の直接ホウ素化反応の改良を行い簡便かつ高収率での合成を実現した。これは、無置換多環芳香族炭化水素の最多ホウ素化反応である。さらに、それに続く各種官能基化も達成しており、官能基によって巨大湾曲分子の電子構造を変化させることに成功している。特に、強い電子供与基を導入した際に、蛍光量子収率を維持したまま赤色発光を得ることができた。以上のことから本研究員の今年度の研究は期待以上の進展があったことは明らかである。今後は、π拡張ユニットの導入とそれに続く縮環反応を検討することで、さらに巨大な湾曲炭素分子の創製を目指す予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
多環芳香族炭化水素(PAH)は6員環を基本構造とした平面分子がよく知られているが、5員環や7員環を内部に含ませることでお椀 状や鞍状に歪み、複雑に湾曲した構造を形成することが可能になる。湾曲PAHは、平面状PAHとは異なる動的挙動、電子特性、パ ッキング構造などに興味がもたれている一方、7員環をもつ湾曲PAHは特に合成が難しく、極めて少ないのが現状である。申請者 の所属する研究室では、5つの7員環をもち大きなうねり構造をとる「ワープドナノグラフェン(以下WNG)」 の合成に成功している。申請者はこれまでの研究において、コラニュレンを基盤とする新奇湾曲PAH の合成と物性評価を行い三次元に広がる湾曲PAHの開拓的研究を行ってきた。WNGはその独特なうねり構造に基づく物性に興味が もたれ基礎研究が行われている。一方でWNGの大量供給が困難であり、WNGの反応性や有機材料への応用は進んでいなかった。そ こで申請者はまず精製法の改善によるWNGの大量供給を実現した。WNGの反応性を明らかにし、また様々な誘導体を合成するため に、WNGのCーH直接官能基化反応の開発を行った。種々検討の結果、イリジウム触媒を用いてWNGを10ヶ所ホウ素化することに成 功した。これは無置換のPAHに対する1段階のホウ素化反応として史上最多であり、10回の反応を経ても高収率で生成物が得られ る本反応は驚異的である。本年度は導入したホウ素を電子求引基や電子供与基へと変換することで、WNGの溶解度の向上、電子 構造の調節および光学物性改良を行う。合成したWNG誘導体は、理論計算による予備検討では、電子供与基を10個導入すること でHOMOが大きく上昇し、吸収・蛍光波長の長波長化が予測されている。水溶性WNGの長波 長化が必要とされていたことから、今回合成するWNG誘導体の光誘導細胞死能を明らかにしていく。
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