2017 Fiscal Year Annual Research Report
「公共」補償の環境社会学的研究:所有権の揺らぎと共同性に着目して
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17J07335
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
奥田 絵 関西学院大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 補償 / ダム開発 / 所有権 / 水没移転 / 環境社会学 / 慣習的権利 |
Outline of Annual Research Achievements |
1年目の本年度は、大規模公共事業によって移転を余儀なくされ解体した集落を対象に、代替地に移転した後の集落運営や生活の実態を明らかにすることで、どのように再建できるのかを問題意識として調査を進めてきた。具体的には、奈良県吉野郡川上村の大規模ダム開発による水没移転集落を対象に、主に①集落の補償に関する先行研究の整理、②フィールド調査による資料収集及び聞き取り調査を軸に研究を実施してきた。 第1点目の先行研究の整理では、大規模公共事業や災害などに伴う移転によって、生活再建がどのように補償されうるのかに関して、社会学、法社会学、環境経済の研究分野を中心に整理してきた。法的には移転の際に所有権を中心に補償してきた一方で、これまでの研究の整理では所有権から生じる慣習的な空間の利用が移転後の生活や集落の再建に関わる重要なファクターとして議論されてきたことが明らかになった。 第2点目のフィールド調査では、主に川上村のダム開発前後の村政に注目した資料収集と水没移転集落を対象に住み込んで調査をしてきた。資料収集では、村議会会議録や広報、ダム開発以後の村の地域づくりに関する資料の2点を中心に集め、ダム開発時には村でダムの受け入れの可否や補償の要望に関する移転集落と村の取る立場に大きなずれがあること、第二のダム開発以降の村の地域づくりにおいては、下流域地域との連携を強化して河川の保護をおこなう政策を推し進めていることが明らかになった。住み込み調査では、水没によって同じ地区につくられた代替地に移転した集落を対象に、移転前後における生活の変容に関することを調査してきた。現在の集落は、水没によって村内の代替地に移転した人が1割程度と人口流出が著しかったことも影響しており、行事の運営方法の見直しが迫られるなど移転前から変容して集落の再建がおこなわれてきたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年計画のうち1年目の本年度では、調査対象地域との関係で予定していた住み込み調査が6月から4ヶ月遅れの10月中旬にずれ込んだ影響で、ある程度の進展はあったといえるが、当初期待してきたフィールド調査が十分に実施できなかった。 具体的な理由としては、(1)フィールドワークを通じて移転して縮小していく集落が移転前の慣習を残しつつ運営可能な形に変容していくことを明らかにした点では進展があったものの、(2)調査対象地域の特徴的な山林労働とダム補償に関しては調査に踏み込めておらず十分にデータ収集ができていなかった課題も明確にあるため、以上を総合的に判断しての結果である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、①ダム開発時に関わる移転集落の補償に関連する資料収集、②集落行事の運営に関するより詳細なフィールド調査を実施してきた。しかし、本年度のフィールド調査の遅れにより、ダム開発によって水没移転した人々の職業に関する補償問題には十分に踏み込むことができなかった。そのため次年度は、引き続き①資料収集②フィールド調査を実施しつつ、③本年度課題として残った水没移転者の職業に対する補償とその後の生活再建について調査をおこなう予定である。これらの3点の調査をおこないつつ、本研究は水没移転集落の補償問題と移転後の生活再建をテーマとして、次年度は学会報告・投稿論文を執筆して研究成果を公表する予定である。
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