2018 Fiscal Year Annual Research Report
関節リウマチにおける筋肉分解メカニズムの解明と栄養学的介入法の開発
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17J07477
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
瀬部 真由 徳島大学, 大学院栄養生命科学教育部, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 関節リウマチ / サルコペニア / 体組成 / 栄養 |
Outline of Annual Research Achievements |
サルコペニアとは進行性および全身性の骨格筋量及び骨格筋力の低下を特徴とする症候群であり、原因疾患の一つには関節リウマチ(Rheumatoid arthritis :RA)がある。我々はこれまでにRA患者の約30%がサルコペニアに該当し、高頻度に筋肉の減少が認められることを報告してきたが、これに対する有効な食事介入法は確立されていない。本研究ではRA患者の筋肉量への食事の影響を調査するため、体組成測定・食物摂取頻度調査を継続的に実施してきた。1年間で5%以上の骨格筋量の減少があった患者割合を、体重あたりのエネルギー摂取量ごとに比較したところ、エネルギー摂取量が20kcal未満の摂取不足の患者では半数以上の患者で骨格筋量の減少がみられた。一方で、30kcal以上と十分量を摂取している患者においても34.6%の患者に骨格筋量の減少が認められた。さらに、RA患者の骨格筋量低下のリスク因子を検討するために多変量ロジスティック回帰分析を行ったところ、リスク因子として飽和脂肪酸の摂取量(オッズ比1.4)が抽出された。この結果から、「より多い脂質(特に飽和脂肪酸)の摂取はRA患者の骨格筋量の減少抑制に対して効果的ではない」と仮説を立て、基礎実験を行った。モデルマウスに標準飼料、高脂肪飼料を給餌したところ、RA発症までの日数の短縮、関節炎スコアの有意な増悪が認められた。また、高脂肪飼料群では腓腹筋(速筋)重量が有意に減少し、筋萎縮関連遺伝子Atrogin-1、MuRF-1の発現が上昇した。さらに、脾細胞を単離しフローサイトメトリーで解析したところ、高脂肪食摂取により自己免疫疾患に関連するTh17細胞の分化が増加することが明らかになった。 以上の結果から、高脂肪食摂取は免疫機能に影響し、関節炎の悪化・骨格筋量の低下をはじめとするRA病態の増悪をもたらすことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで3年間にわたり、関節リウマチ患者の体組成測定・食事調査を実施してきた。本年度では膨大なデータを整理し多変量解析を行った結果、関節リウマチ患者の筋肉量減少のリスク因子として飽和脂肪酸の摂取を見出した。この結果に基づき、モデルマウスを用いた実験を行い、脂質摂取によって関節炎の悪化・骨格筋量の減少といったリウマチ病態の増悪が引き起こされることを明らかにした。さらに高脂肪食摂取によって自己免疫疾患に関連するTh17細胞の分化が増加しており、免疫機能を介した筋肉量の調整機構が存在する可能性が示唆された。本研究において骨格筋量の減少はタンパク質の摂取不足だけでなく、飽和脂肪酸の摂取も重要なリスクファクターとなりうることを明らかにした意義は大きいと評価できる。これまでに関節リウマチ患者に対して適切な食事療法を示した報告はなく、本研究はインパクトのあるエビデンスになると考えられる。よって、当該年度における課題を概ね全うしていると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究結果から、高脂肪食(特に飽和脂肪酸)摂取がRA病態の増悪及び筋肉量減少をもたらすことが明らかとなった。そこで、本年度はRAモデルマウス・培養細胞を用いて、高脂肪摂取が筋肉量を減少させる分子メカニズムを検討する。 研究(1) RAにおいて高脂肪食摂取が筋肉量を減少させる分子メカニズムの検討 ①RAモデルマウスを用いた実験:RAモデルマウスであるSKG/Jclマウスに標準飼料、高脂肪飼料(ラードを含む脂肪分60%カロリー比)を負荷する。解剖時に骨格筋・脂肪・肝臓・脾臓を摘出し、炎症状態、タンパク質の合成・分解、脂質合成・分解に関与する遺伝子発現及びタンパク質の発現をリアルタイムPCR、ウエスタンブロッティングにより解析する。②培養細胞を用いた実験:in vitroではマウスの横紋筋細胞であるC2C12細胞を用いて、RAの慢性炎症下の骨格筋状態を再現できるか培養系を確立し、解析を行う。C2C12細胞をLPSで刺激し、炎症状態下においてパルミチン酸添加を行うことで、筋タンパク質の合成、分解に関与する遺伝子発現及びタンパク質発現を解析する。 研究(2) 腸内細菌叢の変化によるRA病態への影響の検討 腸内細菌叢を構成する細菌種や細菌数が減少することにより、細菌叢の多様性が低下した状態(dysbiosis)が、様々な疾患に影響を与えることが報告されている。そこで、高脂肪食摂取による腸内細菌叢の変化がRA病態に与える影響を検討する。RAモデルマウスであるSKG/Jclマウスに標準飼料、高脂肪飼料(ラードを含む脂肪分60%カロリー比)を負荷する。解剖時に盲腸内容物を採取し、DNAを抽出する。アンプリコンシーケンス解析を行い、細菌種・細菌数の変化とRA病態との関連を検討する。
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