2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J08569
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
須田 啓 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | ハエトリソウ / 接触傾性 / 形質転換 / カルシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究結果から,アグロバクテリアを用いた形質転換を試みたところ,外来遺伝子を導入した細胞からは植物体が得られなかった。外来遺伝子を発現した細胞から茎頂分裂組織が形成されないために形質転換体が得られなかったのではないかと考え,分化多能性を有するカルスを用いてハエトリソウの形質転換技術の確立を目指した。合成サイトカイニン(6-ベンジルアミノプリン)及び合成オーキシン(2,4-ジクロロフェノキシ酢酸)を添加した培地中で種子を培養することで,ハエトリソウのカルス作製に成功した。更に,このカルスを外植片としてアグロバクテリアを用いて形質転換したところ,十分な感染効率が得られることが分かった。感染させたカルスを連続暗期で培養することで形質転換体したシュートの作製に成功した。 既に,黄化した葉を外植片に用いることでカルシウムセンサータンパク質GCaMP6fを発現させたハエトリソウ株の作製に成功していたことから,この株を用いてカルシウムのライブイメージングを行った。その結果,カルシウムイオンの蓄積は,「辺縁部の棘状突起を除いた葉身と感覚毛の刺激受容部位」で観察され,これらの組織が2度目の刺激後,運動時に顕著なカルシウムイオン流入が起こる細胞群であることが分かった。ハエトリソウは2度目の刺激後に直ちに閉合運動することから,記憶情報を蓄積している記憶部位は運動部位の近傍にあることが推定される。このため,「辺縁部の棘状突起を除いた葉身と感覚毛の刺激受容部位」の細胞群が記憶部位であると推定された。 さらに,カルシウムチャネルの阻害剤であるLa3+イオンを含んだ溶液を葉に吸収させたところ,運動機能が濃度依存的に有意に阻害されたことから,特定のタンパク質ではなく,カルシウムイオン自体が記憶分子として機能している可能性があることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ハエトリソウの形質転換およびカルシウムイメージングに成功し,記憶部位の推定に成功した。また,細胞内カルシウムイオン濃度は二度の接触刺激で増加し,カルシウムチャネルの阻害によって運動が阻害されたことから,特定のタンパク質ではなくカルシウムイオン自体がハエトリソウで記憶分子として働いている可能性が示唆され,次年度に行う予定であった記憶分子候補の絞り込みに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
以上の結果から,特定のタンパク質ではなく,カルシウムイオン自体が記憶分子として機能しているという仮説が支持された。そのため,トランスクリプトームによる遺伝子の探索ではなくカルシウムイオン動態の解析が必要となった。 ハエトリソウにおいてカルシウムイオンが記憶分子としての性質を満たすのかを評価するため,細胞内カルシウムイオン濃度に運動を引き起こす閾値が存在するのか,記憶の保持時間が細胞内カルシウムイオン濃度の減衰と一致するのかを評価する。カルシウムイオンがハエトリソウの記憶に果たす役割を解析し,国内外の学会及び学術雑誌において発表する。
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