2017 Fiscal Year Annual Research Report
後期ビザンツ帝国における「ヘレネスの学問」の思想史的研究
Project/Area Number |
17J09027
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
窪 信一 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
Keywords | ビザンツ / 中世 / 西洋古典 / キリスト教 / 教父 / 思想史 / インテレクチュアル・ヒストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
上半期は、9月初めのケンブリッジ大学での研究会における英語の発表に向けて、これまで行ってきた14世紀前半の研究を継続した。発表の聴衆は古典学の研究者が多かったので、古代の教父による「ヘレネスの学問」の評価についてのテキストと14世紀のテキスト、特にその教父を引用するグレゴリオス・パラマスを比較する形で行った。そのおかげで、古代の教父の議論とそれを権威として読んだ中世の知識人たちの議論との関連をより意識するようになった。 下半期は、14世紀に流行した天文学に関連した一次資料から、「ヘレネスの学問」としての天文学を擁護する言説の変化の研究を行った。その過程で、テオドロス・メトキテス、ニケフォロス・グレゴラス、テオドロス・メリテニオテスという、ヘシュカズム論争以前、論争当事者、それ以後の三人の天文学者による占星術批判におけるプトレマイオス『テトラビブロス』冒頭のテキストの利用の差異に気付いた。またThesaurus Linguae Graecaeを使うことで、カイサリアのバシレイオスやナジアンゾスのグレゴリオスといった古代の教父が天文学/占星術について言及した箇所のフレーズが、その典拠が明示されずに使用されていることを突き止めた。 全体として、ビザンツ知識人による名指しの引用のみならず、出典を明示しない先行テキストの利用も自分で新たに見つけることができた。その典拠の文脈と彼らの議論を比較することで、ビザンツ人によるテキストの操作について理解が深まり、今後の研究への視座を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は14世紀後半から研究を始めることを予定していたが、実績概要で述べたように、14世紀前半から始めることになった。天文学文献の研究では、14世紀後半に活躍したテオドロス・メリテニオテスを扱い、最終的に当初設定した時代に接続することができた。遠回りをすることになったが、結果としては、ビザンツ知識人による「ヘレネス」の異教の古典や教父のテキストを利用した議論の仕方について知る契機となった。具体的には、典拠の内容との矛盾を厭わず、読者に提示する情報を取捨選択することで、自身の意図した方向へと議論を有利に進める彼らのテクニックについての理解を深め、今後も論争の歴史を研究していく上で有用な切り口を得た。
|
Strategy for Future Research Activity |
14世紀後半以降、ヘシュカズム論争から西方との教会合同運動を背景とした聖霊の発出についての論争へとシフトしていく中で、15世紀のプラトンとアリストテレスの優劣論争につながる論点を見つけて研究していく。例えばプラトンとアレイオス主義のように、「ヘレネス」の哲学や神学と古代の異端や正統の教義を結び付ける言説に着目することで、キリスト教信仰の観点から「ヘレネスの学問」を巡る評価の変遷を追っていく。
|
Research Products
(2 results)