2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J11021
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
掛川 直之 大阪市立大学, 大学院創造都市研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 矯正施設等出所者 / 犯罪からの社会復帰 / 出所者支援 / 居住支援 / 地域福祉援助 / 出所者の生活史 / 社会的排除 / 社会的孤立 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、たんにその場所に「住む」ことだけではなく、「地域」のあり方をも含めた視点から「出所者の居住支援」について国内外の実態調査をおこなうことを通じて、その課題の解決にむけた提言につなげることを目的としている。本研究実施計画では、①出所者支援にとりくむソーシャルワーカーへの聴き取り調査、②自立準備ホームの運用状況についての聴き取り調査、③出所当事者への生活史調査をおこなうこととしていた。このような目的および計画に対する本年度の研究実績としては、以下のとおりである。 〔①について〕大阪、京都、愛知を中心に、和歌山、滋賀、岐阜、静岡、岡山、韓国など、出所者支援にとりくむSWに聴き取り調査をおこなった。その結果、孤軍奮闘せざるをえないSWの実情、さらには、出所者支援間のコミュニケーション、ネットワークの不足を痛感することになった。そこで、この課題を解消するために、大阪、京都、愛知において、出所者支援にとりくむSWのネットワークづくりにも積極的に関与した。 〔②について〕関東および近畿の自立準備ホーム各1施設に、その運用状況についての詳細な聴き取り調査をおこなった。結果、自立準備ホームは、施設コンフクリトの回避はもちろん、特別の施設を増設するのではなく、既存の社会資源を有効に活用できる、という観点からも多くの可能性を秘めた制度であるといえる、ということが改めてわかった。しかし、法務省からの委託費だけでは運用が難しいという根本的な問題や入所者の医療費の問題などいくつかの課題もみえてきた。今後は、全国の自立準備ホームの運用実態をあきらかにするとともに、課題の解消に努める必要がある。 〔③について〕愛知において出所当事者に対する生活史の聴き取り調査を複数回にわけておこなった。結果、「プロセスとしての貧困」のなかで、複層的な社会的排除状態に陥り、犯罪行為に及んでいる過程と実態の一例が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた①出所者支援にとりくむソーシャルワーカーへの聴き取り調査の対象都市は、仙台・東京・名古屋・大阪・北九州の5都市および韓国であった。このうち、仙台・東京については聴き取り調査をおこなうことができなかった。しかし、別の都市を含めた11都市および韓国において調査をおこなうことができ、研究の進捗には大きな支障をきたすことはなかった。②自立準備ホームの運用状況についての聴き取り調査については、予定通り2ヶ所でおこなうことができ、その成果を学会およびジャーナルで報告することができた。③出所当事者への生活史調査については、1人に対して複数回の聴き取りをおこなうことができた。 総じて、当初掲げていた、たんにその場所に「住む」ことだけではなく、「地域」のあり方をも含めた大きな視点から「出所者の居住支援」を考えていくという研究目標に対して、本年度おこなった調査研究は、おおむね予定どおりに順調に進展しているといえる。 しかし、課題も大きく2つ残っている。ひとつは、出所当事者の生活史の聴き取りをあと数名は聴き取らせていただく必要があり、できればフォーカスグループディスカッションなどの方法で出所者の立ち直りや社会復帰についての認識を明らかにする必要があると考えている。もうひとつは、実態調査部分においては海外への調査研究を十分にはおこなうことができなかった。この点は、来年度の実施にむけて積極的にとりくんでいきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、3つある。 まず、本年度の積み残し部分とも重なるが、①出所当事者の生活史の聴き取り、および出所者の立ち直りや社会復帰についての認識を明らかにするためのフォーカスグループディスカッションを実施する。 つぎに、②本年度、2都市における聴き取り調査の成果をもとに、京阪地区の自立準備ホームへの質問紙調査を実施する。当初、全国調査の実施を目指していたが、非公開施設のため、本年度の調査のなかで、全国の施設を特定することが困難であると判断したため、おおむね把握できている京阪地区に限定する次第である。 さいごに、これも本年度の積み残し部分と重なるが、韓国、台湾、香港といった東アジアでの実態調査にとりくんでいく予定である。
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