2017 Fiscal Year Annual Research Report
自己表象によるジェンダーと社会――女性のドキュメンタリー映画
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17J11223
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中根 若恵 名古屋大学, 人文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 映画学 / ドキュメンタリー / セルフドキュメンタリー / 自己表象 / ジェンダー / フェミニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本のドキュメンタリー映画における女性の自己表象(セルフドキュメンタリー)の問題を歴史的・社会的に考察することを目的とする。平成29年度は、広範な社会的問題へと連続するフェミニズム的課題と女性のセルフドキュメンタリーを関連づけて調査した。具体的には山形国際ドキュメンタリー映画祭への参加、また同映画祭のフィルムライブラリーやイメージフォーラムのアーカイブ等で調査を行い、それを基盤に以下の3点の課題について成果をあげた。 第一に、東日本大震災後の市民運動の隆興に注目しつつ、震災を題材とする女性の映画的自己表象の特徴と社会的な意義について検討し、日本映像学会大会(神戸、2017年6月)とICAS(チェンマイ、2017年7月)で口頭発表を行った。 第二に、1990年代における女性の自己表象の増加に注目することによって、フェミニズム的な問題関心の転換と映像文化の関係性を検討した。その系譜を代表する映像作家・河瀨直美に関する研究成果を、Female Authorship and Documentary Image (Edinburgh University Press)の一章として発表した。また、上記の成果を補足・発展させる形で90年代の女性作家の作品群に注目する調査・分析を行い、日本ジェンダー学会大会(2017年9月)で口頭発表した。 第三に、2000年代以降に増加した病いをめぐる自己表象と女性の主体性の関連について、テレビにおける乳がん表象に焦点を当てて検討した。この課題では、これまでに対象としてきたインディペンデントドキュメンタリーの領域だけではなく、テレビでの作例に注目することで、映画だけでなく複数のメディアを横断する自己表象のあり方を多角的に捉えるための重要な端緒となった。本課題については日本女性学会全国大会(2017年)で口頭発表を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、平成29年度はフェミニズム的問題と自己表象の関係について主に三つの切り口から調査・分析を行ってきた。 上述した第一点目の課題については口頭発表でのフィードバックを参照しつつ、同年度に開催された山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された震災映画に関する調査・分析も加えたうえで、学術誌への投稿を目指して論文を執筆中である。第二点目の課題については、ドキュメンタリー映画領域での女性の作家性をめぐるプロジェクトの一部として論考を発表した。また、その成果をさらに補足・発展させた課題に関しても、学会での口頭発表を経て、現在、論文化に向けて動いている。第三点目の課題については日本女性学会大会(2018年6月)で成果を発表する予定である。当発表では、乳がんと女性の自己表象というトピックを中心にフジテレビのドキュメンタリー番組「ザ・ノンフィクション」に焦点を当てる予定だが、テレビの自己表象という現象をより正確に把握するために、現在扱っている事例にとどまらず、他のテレビ番組に関しても広範な調査を進める必要性があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
国内外の映画祭への参加や山形フィルムアーカイブでの調査を引き続き行う予定である。また平成30年度は映画制作者へのインタビューを積極的に行うことで、映画の表象的な側面だけではなく制作のプロセスに関してもさらに注意を向けたい。 平成29年度に中心的に扱った「フェミニズム的課題と自己表象」に関しては、特に第三点目の病いの自己表象を検討した課題について、テレビという媒体のメディア特性と自己表象の関係性をより多角的に捉える必要があることがわかった。そのためにも、NHK番組アーカイブス学術利用トライアル(平成30年度6月に調査実施予定)に応募参加しセルフドキュメンタリーの番組の調査・分析を行うことによって、テレビにおける自己表象の特徴や意義をより広い視野から把握したいと考えている。 また、平成30年度にはセクシュアルマイノリティとしての自己を表象する一連のドキュメンタリーに関する調査にも着手したい。セクシュアルマイノリティをめぐるドキュメンタリー映画に関してはクィア・LGBT映画祭を基盤とする上映のプロセスが重要な役割を果たしていると考えている。そのため各地のクィア・LGBTフィルムフェスティバルに関する調査を基盤として制作・配給・上映・受容のプロセスに関する包括的な調査・分析を進めていきたい。
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Research Products
(4 results)