2017 Fiscal Year Research-status Report
Russia's Asia policy after the annexation of Crimea: Sinocentrism and/or Diversification
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17K13280
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
加藤 美保子 北海道大学, スラブ研究センター, 特任助教 (70612018)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ロシア外交 / 中ロ関係 / ロ越関係 / 日ロ関係 / ロ朝関係 / 主権 / 地域研究 / 国際関係論 |
Outline of Annual Research Achievements |
第三期プーチン政権下の2014年3月に起きたウクライナ領クリミアのロシアへの編入と、これを非難する欧米諸国との対立の長期化は、グローバルな文脈でも地域の文脈でも国際政治の緊張を高める要素となっている。本研究は、①ロシアによるクリミア編入は主権国家体系への挑戦と言えるのか、②ロシアと欧米の対立はロシアのアジア・太平洋政策にどのような影響を及ぼすのか、について実証的に分析することを目的としている。 当初の計画では、初年度は①についてプーチン体制の政治エリートの主権認識に注目して分析する予定であったが、7月に北海道大学で行われた中ロ関係をテーマとする国際シンポジウムの報告を依頼されたため、課題②を優先して英文ペーパーを執筆、報告を行った。具体的には、2000年代のロシアの「東方シフト」の政策構造を4つの分野(地域開発、エネルギー、軍事、外交)に分け、2014年以降、各分野における中国優先主義が強まっていることを専門家の議論や事実関係の分析から指摘した。そして北朝鮮問題と中越間の領有権問題を事例に、中ロは必ずしも国益が一致するわけではないが、国際問題において共同イニシアチブをとることによって米国の影響力が強い地域において一定のプレゼンスを確保しようとしていることを指摘した。報告に対するコメントや批判を参考にペーパーの修正作業を進めており、平成30年度中の投稿を目指している。 また、当初の計画通りにモスクワ調査を3月に実施し、国立研究大学高等経済学院やロシア科学アカデミー極東研究所を訪問し、情報の少ない中ロ軍事協力を中心に聞き取り調査を行った。また、モスクワ調査では課題①に関するロシア語文献の収集も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題②では、ロシア外交における中国優先主義とアジア外交の多角化(日本、ベトナム、韓国、北朝鮮)という相反する目標をどのように達成するのかについて、二国間関係と国際環境(米ロ対立)の双方向から、文献調査とフィールドワークによって検討することを計画していた。初年度は、経済制裁下のロシアのアジア外交の変化について中ロ関係を中心に事実関係の整理と「中国優先主義」をめぐる先行研究の議論をまとめた論文「東方シフトと「中国優先主義」の諸問題」を『海外事情』のロシア外交特集に投稿し掲載された。また、これを発展させる形で、「中国優先主義」が極東開発や北東アジア諸国との関係においてどのように機能しているのかについて7月の国際学会で報告した。ロシア、中国、日本、モンゴル、イギリス、メキシコ、インドから参加した研究者からは、政府関係者の発言に依存した分析手法にとどまらず統計データを活用すべきだ、中国優先主義がロシアのアジア外交の妨げに成り得ない点は説明できているが、安定要因として機能しているかどうかについての実証が弱いなどのフィードバックがあった。年度内に英文ペーパーの修正を終えることはできなかったが、建設的なフィードバックは本研究課題の発展につながっている。 申請時点より研究費の配分が少なくなったため、予定していた海外調査と海外の学会参加については行先を絞り、期間を短縮して対応していく必要が生じた。初年度は、課題①に関するロシア語文献収集と、課題②に関する聞き取り調査を同時に行えることから、モスクワ調査のみ実施した。この調査では、次年度の事例研究で扱うロシアの朝鮮半島政策の北朝鮮核開発問題について専門家への聞き取りを行うことができた。 全体として、当初の研究計画の順序変更を行ったが、目的達成に向けて執筆と調査を進め次年度の準備に取り掛かることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、昨年度のモスクワ調査で収集した課題①に関するロシア語文献を読み先行研究を整理する。その上で、プーチン政権の政治エリートの主権認識に着目してクリミア編入がどのように説明・正当化されているのか、また政策決定過程に重要な役割を果たしたアクターについて検討する。そして、この主権認識が東アジアの領土問題に対するプーチン政権の立場にどのように作用しているのかについて分析し、7月に開催される国際学会Association for Borderlands Studies 2nd World Conference 2018で報告する。 課題②については、1年目に国際学会で発表した英文ペーパーの修正を優先的に進める。具体的には、ロシア極東開発への外国投資の統計データを収集・活用し実証分析を補強し、今年度中の英文査読誌への投稿を目指す。また、研究計画に従い、事例研究のうちロシアの朝鮮半島政策の部分を進める。北朝鮮問題に対するこれまでのプーチン政権の方針と政策について概観し、米ロ対立という要因が及ぼす影響について検討する。韓国との関係についても、朴政権、文政権がとってきた経済的なロシア重視政策の実態と将来的展望について関連文献、統計データ、聞き取りを組み合わせて調査を進める。
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Research Products
(6 results)