Outline of Annual Research Achievements |
小学校5年生に対して, 川内原発再稼働論争問題の授業を行った。子どもたちの発言内容とふり返りの内容から, 次の2点から, 「当事者性」の捉え方と有効な学習活動について提案を行った。 第1に, 論争的学習で涵養する「当事者性」について, 捉え方を示せたことは成果である。即ち, 「ある論争問題の結果が, 自分が『当事者』と考えた人々に, どの程度強い影響を与えるか関心をもって考え判断できることが, 『当事者性』がある状態である。また, 自分が『当事者』と考えた人々への影響を考え判断する際に, 単に個人的な利益だけではなく様々な立場の人々の状況を考えていることが, 『当事者性』が高い状態である。さらに, 自分が『当事者』と考えた人々への影響を考え判断する学習を繰り返すことで, 自分(子ども)は, 論争問題への関心を益々高め, 自分と論争問題や当該政策との利害を考えるようになることである」と捉えたことである。 第2は, その「当事者性」を, 子どもの姿で語ることについて, 「当事者」を誰にするのか, 公共的価値か個人的価値かを, 規準の2つの要素として, 「当事者性」が涵養される姿を4つのカテゴリーで捉えられることを明らかにしたことも成果である。実際の授業では, 自分が「当事者」と決めた人になったり, 敢えてそれ以外の立場の人になったりしたつもりで, 役割演技の対話を行った。そこでは, ①自分と異なる考え方にどれだけ触れたのか, また, ②子ども達が原発立地自治体と周辺自治体が公正ではない状況をどのように受け止めたのか, などを考察した。先ず②について。「薩摩川内市民だけ」以外を「当事者」とした子どもは24人/28人に上った。子ども達は, 同意する権利さえもたないのに事故が起きれば放射性物質の被害を受ける人々がいることを知り, 「公正」さが保障されないことを問題視したと考えられる。子ども達は, 自分が「当事者」と判断した立場以外の人々の利益・不利益も考え, 公正を意識しながら, 最終的な「当事者」を決めることができた。次に①について。役割演技の対話を通して, 自分以外の異質な他者の意見へ反論したり, 拒否したり, 受け入れたりすることを通して, 自分以外の他者の利害はどうか, 広い視野から公正や公共的に考える価値観が芽生え始めたと考えられる。また, 異質な声を聴くことで, 最後まで薩摩川内市民を「当事者」に限定していた子どもでさえも, 薩摩川内市の儲けを周辺自治体に分配したいという「公共」を意識した考えに変化したことに, 変容と認めることができた。
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