2019 Fiscal Year Annual Research Report
万葉集仙覚校訂本の総合的研究―成立過程・校訂の方法・享受の様相の解明―
Project/Area Number |
18H00646
|
Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
田中 大士 日本女子大学, 文学部, 教授 (40722137)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
城崎 陽子 獨協大学, 国際教養学部, 特任教授 (20384000) [Withdrawn]
乾 善彦 関西大学, 文学部, 教授 (30193569)
大石 真由香 岐阜聖徳学園大学, 教育学部, 講師 (40624060)
杉山 典子 (新沢典子) 鶴見大学, 文学部, 教授 (60454162)
池原 陽斉 京都女子大学, 文学部, 講師 (70722859)
景井 詳雅 京都府立大学, 文学部, 研究員 (80791508)
樋口 百合子 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (90625493)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 仙覚校訂本 / 次点 / 仙覚の悉曇学 / 歌枕名寄 / 万葉集禁裏御本 / 文永三年本 / 文永十年本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、万葉集仙覚校訂本について、①その生成過程の解明、②仙覚の学問との関連、③仙覚校訂本の享受という三つの方向から総合的に解明することを目指している。 ①の生成過程については代表者の田中が、仙覚が校訂本を作る過程で、万葉歌の訓を歴史的に三種類に分けて表示しているが、そのうちの「次点」の位置づけが長らく不明であったが、それらが片仮名訓本系統という本に依拠していることを明らかにしたことが大きな成果である。また、分担者の池原により、平安時代の歌集『古今和歌六帖』の万葉集摂取の様相が明らかになった。 ②の仙覚の学問との関連については、分担者の乾、新沢が、いずれも江戸時代の学者契沖との関連で、その学問の独自性を明らかにした。 ③の仙覚校訂本の享受では、分担者の大石により、長らく正体不明であった禁裏御本(仙覚校訂本の一種)の実態が明らかにされたのが最大の成果である。また、分担者樋口により、鎌倉時代の仙覚校訂本以外の訓(従来その存在が知られていなかった)の存在が指摘された。さらには、分担者の景井により、中世の万葉集が、寛元本という第一次校訂本に依拠していることも明らかになった。また、代表者の田中は、平仮名傍訓本という従来知られていない伝本を調査し、後期仙覚校訂本である大矢本の享受の様相を明らかにした。平仮名傍訓本は全国に複数存在しているが、その一斉調査の準備も行った。享受の分野は、成果が多く、また多様であるが、なかでも大石と研究協力者の野呂によって切り開かれた禁裏御本とその周辺の伝本群の解明は、今後の研究の大きな潮流となりうる成果と考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、構成員により、各分野で精力的に研究が進められている。構成員による学会における講演、研究発表は数多く、学会誌への掲載論文も数多い。とくに③の仙覚校訂本の享受の分野では、長い間その形態が不明とされてきた禁裏御本の実態が明らかとなり、その周辺の伝本の発掘も行われ、今後新たに研究分野を構成するほどの成果がもたらされた。また、従来知られていなかった平仮名傍訓本も、全国での伝本調査が進み、研究が進展すれば、江戸時代の万葉集享受の新たな実態が明らかになると期待される。 ただし、2020年2月からの新型コロナ肺炎の影響で、予定されていた調査、研究会などがすべて中止となり、期待されていた成果の共有が不可能となった。また、それ以前に進展していた研究のまとめも行えなかった。とくに、平仮名傍訓本の共同研究は、緒についたばかりで、この時期に研究会が中止となったのは大きな痛手であった。 本研究は、従来の計画に加え、大きく進展した分野もあったため、計画以上の成果が得られる予定であったが、まとめにあたる最後の二か月で、ほとんどの研究活動が中止になったため、上記のような進捗状況にとどまった。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在も、各地への調査、並びに一堂に会しての研究会はむつかしい状況にある。研究会や検討会においては、リモート会議を行いつつ、構成員同士の連絡を行い、研究を進めてゆくつもりである。 ことに昨年度末に中止になった平仮名傍訓本の調査、検討は、進展が望める。昨年度、今年度と新たな平仮名傍訓本の購入を行い、その詳細な調査が可能になり、他所の平仮名傍訓本との比較検討の精度が上がることが期待される。 禁裏御本とその周辺の伝本群の検討も、新たな成果が望める。従来、仙覚校訂本は、代表的な数本のみで検討が行われてきたが、新たに発掘された伝本を検討することにより、仙覚校訂本が、これまで考えられてきたより多種多様な伝本によって享受されてきたことが明らかにできる。傍訓本との比較検討の精度が上がることが期待される。 仙覚校訂本の生成については、新たに古筆切(断簡)を使用した研究を加える予定。従来性格が不明と考えられてきた古筆切の多くが、仙覚校訂本の生成とかかわる伝本であることが解明されつつある。次年度は、集中的に古筆切から仙覚校訂本生成の過程を明らかにする予定である。 昨年度の研究会から、これまでの構成員以外の若手研究者の参加者があり、それらの研究発表が、学会の発表に結び付くケースが現れてきた。若手研究者の人材育成の場としても、研究会を利用してゆきたい。また、本研究の成果を広く報告する刊行物(経費はこの研究とは別途)を計画している。比較的専門性が高い万葉集伝本の様相を、図版を用いて一般にもわかりやすく解説する書籍を計画し、社会還元の一斑としたい。
|
Research Products
(14 results)