2021 Fiscal Year Annual Research Report
中国語における文法的意味の史的変遷とその要因についての総合的研究
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18H00662
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大西 克也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10272452)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 英樹 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (20153207)
木津 祐子 京都大学, 文学研究科, 教授 (90242990)
松江 崇 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (90344530)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 歴史言語学 / 中国語文法 / 存在構文 / 時間詞 / 官話 / 介詞「把」 / 文法化 / 三人称代名詞「他」 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度はオンライン環境が整ったことを受け、共通課題に関する2度の定例研究会をオンラインで再開した他、各分担者は課題に関する以下の実績を上げた。 大西は中古に成立した「有」字時間的存在構文の形成プロセスの解明に取り組み、空間を主語とする「有」字空間的存在が上古後期に成立した後、文頭に立つのが通例であった時間フレーズが、空間へのメタファーによって主語と解釈しなおされたことによって成立し、両者の形成プロセスは異なるものであったことを明らかにした。 木村は昨年度に続き現代中国語における時間詞の語彙化の問題に取り組み、「1時、2時」などの時刻が〈量〉として捉られること、〈朝・昼・夜〉などの生活時間帯が〈空間〉的に捉えられることなど諸々の言語事実を掘り起こし、中国語話者が時間および時刻という概念を優れて具象的に捉えているという認知論的事実を明らかにした。 木津は、論文「「把」字句から見る長崎唐通事資料」にて、長崎唐通事資料は、共通中国語の介詞「給」と近い働きを有する「把」の機能から、二類に大別し得ることを指摘した。また日本中国語学会招待講演「「官話」再考」では、明清期の官話が、口頭語としては文言的色彩をもっていたことを、文献分析を通して明らかにした。 松江は、上古の『孟子』と中古の『雑宝蔵経』を資料として、三人称代詞“他”の生成過程を論じ、上中古間に語彙的意味では漂白化、指示性では定用法の拡大、指示対象では有情物指示用法の増加がみられると指摘した。またこの変化は、話者が三人称指示の際に排斥的心理を表現しようとする欲求に促されたものだと主張した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は断念した定例研究会をオンラインで行い、外部の若手研究者も交えた研究会を開催して課題に関する有益な意見交換ができた他、限定的ではあるがオンラインで開催された国内外への参加を再開することができた。 また各分担者はそれぞれの担当する時代において、〈モノ〉および〈コト〉の捉え方に関する「文法的意味」とその変遷の解明に取り組み従来にない成果を挙げている。特に松江が取り組んだ三人称代名詞「他」の成立に関する研究は、上古では参照物以外の不特定的もしくは不定的な事物を漠然と指示した「他」が、参照対象とは別の属性を持つ人物を排斥的に指示する用法を経由して、急速に定指示の用法を獲得するプロセスを描きだしており、特定と不特定、定と不定という、いわば相反する指示範疇を超えて進行する特殊な文法化の実例を提示したものとなっている。文法範疇の成立・変容の歴史を描き出し、そのメカニズムの解明を目的とする本課題における大きな成果と位置付けられる。
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Strategy for Future Research Activity |
オンラインによる研究遂行環境が整ったことから、感染症の影響は前年度にくらべて大幅に軽減し、全体の計画に変更を要するほどの問題は生じていないと考えている。次年度も遠隔会議を視野に入れながら予定通り計画を進めるつもりである。
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