2019 Fiscal Year Annual Research Report
中近世移行期検地帳の史料学的研究とデータベースの構築 ―太閤検地研究の再検討
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18H00713
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
谷口 央 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (90526435)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土屋 健俊 首都大学東京, 大学教育センター, 特任助教 (10808744)
千葉 真由美 茨城大学, 教育学部, 教授 (50396933)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 太閤検地 / 文禄三年 / 検地帳 / 慶長六年 / 甲斐国 |
Outline of Annual Research Achievements |
検地帳の形状理解を図るべく、山梨県立博物館所蔵の慶長6年(1601)に甲斐国一国全体で実施された検地帳の悉皆調査を終えた。本博物館に遺される検地帳原本は計1,089点であり、目録作成も終えた。この検地帳の特徴は表紙・検地帳自体の大きさ等に加え、田畑が内題等を付けて分離しているのではなく、耕作状況そのままの記載である田畠の混合記載方法が採られている点や、等級単位として「上々」「下々」に加え「麦田」があると言った統一があることを目録作成する中で確認できた。一方で、検地奉行による差異については改めて検証する必要があるが、目録作成上では大きな差異は確認できなかった。 慶長6年甲斐国検地帳目録作成上で注目されたのが、それ以前にあった検地帳からの荒地(=無年貢地)確定の継承である。具体的には、天正17年(1589)にあった徳川氏による五か国総検地と、文禄3年(1594)にあった浅野長吉(長政)による太閤検地による荒認定地についてである。もちろん、慶長6年に新たに設定された荒認定地も存在するが、ここに見る荒認定地の継承は、前段階にあった検地帳の記載内容が、村方が求める無年貢設定の根拠となり得ることを示すことになり興味深い。 また、検地帳の記載内容を考える上で注目すべきである検地の規則が記される検地条目変化の推移については論文にまとめた。その結果、検地条目では把握される耕作地については詳細な把握が目指され、等級などの上昇も果たされた結果、石高数値の上昇、つまり年貢増徴が果たされたことを理解したが、一方で、検地帳名請人についての規定は最後まで見られなかったことも明らかにした。 それを受け、昨年度に引き続き、検地帳に記載される名請人設定についての調査も進めた。具体的には文禄年間に大幅な名請人名称の変化があったのではないかとの視点を持ち、河内・和泉・摂津国内の検地帳収集を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研最大の目的である目録作成の元となる検地帳の残存状況把握調査については、昨年度までに終えていた千葉県・埼玉県・東京都・神奈川県に加え、検地帳原本調査により山梨県立博物館蔵検地帳についても調査を終えた。また、山梨県立図書館蔵分については目録作りも終えた。加えて、茨城県についてもその把握をおおかた終えることができた。これらは、刊本として公開されたものに加え、原本の写真撮影及び自治体史作成の際に収集された写真・マイクロフィルム・写真帳の写真撮影等による収集も含むものである。 また、上記にある調査を終えた検地帳の目録化作業については、昨年度作成した目録雛形を実際の検地帳に即す形で修正し、作成し直した。今後は、昨年度までに収取し終えた検地帳も含め、目録作成を進めていく。 今年度は上記に加え、栃木県の検地帳把握を進めるため、その事前調査として栃木県文書館に遺される、栃木県史作成時に収集された検地帳写真帳の調査を行った。これについては次年度本格的に調査を行う予定で、現在、調査史料目録の作成と調査依頼準備までを終えている。 さらに、昨年度に引き続き、文禄期の検地帳に記載される名請人把握のため、和泉国・河内国の検地帳を中心に、摂津国分についても改めて検地帳の収集調査を行った。具体的には、河内国については河内長野市が市史編さんの際に収集した検地帳全点の写真調査と、和泉国については堺市・貝塚市がそれぞれ自治体史作成の際に収集した検地帳写真帳の調査・収集である。河内国については未調査として残る検地帳は多いが、和泉国についてはおおよそ全容を把握できた。同じく畿内近隣地域での文禄期検地帳として、丹後国の検地帳について京都府立歴彩館に収集されている検地帳写真帳の調査を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは本年度までに調査の準備を進め、調査史料の実態把握がてきている栃木県の太閤検地帳収集調査を実施する。すでに、栃木県史作成時に収集された検地帳についての把握は終え、その点数は149点あることが確認できている。このように大量の検地帳の写真撮影を行う必要があることから、栃木県文書館での調査は複数回に分けて行い、全冊を写真撮影によって収集・調査する予定である。なお、調査時期についてはできる限り早めに行う予定であるが、昨今の危機的状況もあり、この危機的状況から回避された段階で、調査を行う予定とする。また、この調査に引き続き、栃木県内で刊行を終えている各自治体史の調査を行い、そこに掲載されている検地帳の全点把握も行う。加えて、各自治体によって自治体史作成時に収集された検地帳の実態について調査を進め、栃木県については次年度中に調査・収集を終える予定とする。 伊豆地域については、静岡県史が調査収集した検地帳の実態把握が可能なため、静岡県史収集史料を中心にその実態把握を次年度前期・夏期休暇までに終える。これはwebでの調査をまずは行うこととする。なお、調査については、できれば早急に実施したく、現状では、可能であれば後期には調査を始める予定としておく。 また、名請人調査として行っている文禄期・慶長前期の検地帳調査については、残る畿内近隣地域である丹波国と摂津国の兵庫県部分・河内国について調査可能となった情勢次第、その調査と実態収集を行う。 上記の予定は大半が現地を訪れての調査であるため、その作業時期が確定できないのが現状である。そこで、自身の研究室での作業が可能となる、今年度までに収集を終えている検地帳の実態分析及びその目録化をまずは進めていくこととする。
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