2020 Fiscal Year Annual Research Report
南都の未整理文書聖教にもとづく寺社とその周辺社会の調査研究
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18H00717
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
吉川 聡 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 文化遺産部, 室長 (60321626)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 晃宏 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 客員研究員 (30212319)
横内 裕人 京都府立大学, 文学部, 教授 (50706520)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 織豊期武将の書状 / 奈良町惣年寄 / 興福寺承仕 / 大連 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の主眼は、奈良関係の古文書・聖教のうち東大寺や個人が所蔵する未整理資料について、悉皆的な調査研究を実施して資料を保存・公開・活用する道筋を開き、かつ、南都の寺社と、寺社を中心として発達した社会を、総体として理解することを目指すことにある。 2020年度の事業は、新型コロナウィルスの感染拡大による影響に伴い、2022年度まで延長して実施した。 個人蔵資料の調査研究を進め、その成果を『元奈良町惣年寄 清水家資料調査報告書』として公刊した。これは、江戸時代に奈良町惣年寄を世襲した清水家が所蔵する資料の調査報告書である。この調査研究により、清水家は室町時代には南山城の祝園の地侍的な存在だったこと、16世紀後期に河内守護畠山氏の被官となっていること、その後織田信長に仕えたこと、豊臣政権期に奈良に居住し、連歌などの文化面で活躍したこと、17世紀半ば以降、町人として惣年寄を世襲したこと、江戸時代中後期には奈良晒し・算術など、奈良の産業・学問振興に関わっていたことなどが明らかとなった。また織田家の武将などが清水家にあてた書状が50通近くも確認され、信長の石山本願寺攻め関係資料など、戦国・織豊期の政治史研究に有用な資料紹介をおこなうことができた。 東大寺所蔵の新修東大寺文書聖教は、その一部である中村純一寄贈文書について、元禄年間と明治初年の日記の翻刻作業を進めた。江戸時代の興福寺承仕の仕事や、明治初年の奈良の状況が読み取れる。 また、上記の東大寺所蔵中村純一寄贈文書と元来は一体だった個人蔵資料を調査した。その結果、当該史料は2020年に奈良文化財研究所に寄贈された。興福寺承仕関係資料である。江戸時代後期から明治維新後にかけての詳細が判明する。さらには近代、日露戦争直後に満州の大連に商社を構えたこと、当該時期の大連での商売の様子などを確認しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルスの感染拡大による影響により、資料所蔵者の元に出向いて多人数で実施する調査は、大きな制約を受けた。しかし、人数を限定して密を避ける形で調査したり、借用可能資料を奈良文化財研究所に借用したり、工夫して調査を実施した。また詳細な検討については、リモート会議での検討会も実施した。その結果、調査した資料点数は当初想定を下回ったが、重要資料の検討は、当初予定よりも充実したものとなった。特に『元奈良町惣年寄 清水家資料調査報告書』は、戦国・織豊期の政治史研究にも有益で、かつ、研究が手薄な近世奈良町惣年寄の実態にせまるものであり、予想以上の成果を挙げたと考えている。年度を繰り越したものの、以上の点から最終的進捗状況としては、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルスの感染拡大による影響に伴い、多人数による調査、特に、資料所蔵者の元に出向いての調査が充分でないので、2021年度・2022年度事業で推進する。具体的には、東大寺図書館が所蔵する新修東大寺文書聖教・東大寺中性院襖下張り文書と、さらには当研究所に寄贈された興福寺承仕関係資料の調査研究を推進する。
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Research Products
(7 results)