2018 Fiscal Year Annual Research Report
複合災害を引き起こす自然外力の同時生起確率の評価システムの構築
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18H01543
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
北野 利一 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00284307)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡部 哲史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任講師 (20633845)
志村 隆彰 統計数理研究所, 数理・推論研究系, 准教授 (40235677)
上野 玄太 統計数理研究所, モデリング研究系, 教授 (40370093)
田中 茂信 京都大学, 防災研究所, 教授 (70414985)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 多変量極値分布 / 多変量極値パレート分布 / 多変量ポアソン分布 / 再現期間 / 経験度 / 包括生起率と同時生起率 / 上位K番めの極値 / ratio-of-uniform 法によるベイズ推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
100 年に1度の高潮が来襲する際に,必ずしも高波も100 年に1度の規模となるとは限らない.湾に流入する河川の出水規模の相関も同様である.また,伊勢湾と三河湾のように隣接する地域での高潮被害も,それぞれ単独の被害金額としては上位を占めるものでも,他方で被害がほとんど無い場合には,合計被害額にすると,上位に入らない.むしろ,単独では上位にならない被害でも,両湾での合計は,上位となることもある.このような累積リスクを検討する際には,ハザードの同時生起頻度を適切に見積もることが鍵となり,広域的な復旧計画を策定するうえで非常に重要となる.本研究では,このような災害を引き起こす甚大外力の生起頻度を柔軟に扱える統計モデルを構築し,具体的な実例に対して解析し,対策につながる分析を行うことが5年間の目的である.理論的な枠組みとして,多変量ポアソン分布を基礎として,同じ暴風による同時に生起する外力の極値を扱う多変量極値 GP 分布の基礎理論を構築中である.2018年度は,1) 2変量の閾値を超える極値に対して,生起数についての相関係数に着目することにより,数学的には,2変量ポアソン分布と,2変量極値 GP 分布,ならびに2変量極値分布の相互関連を定式化した.2) 適切な閾値の定め方についても,実例を用いて提示した.この方法は,流域全体の任意の2地点の降水量をペアワイズに2変量極値 GP 分布で従属性を検討できる max. stable 過程による統計解析に展開させる上で非常に重要となる.また,気象研究所で提供されている気候モデルによる大規模アンサンブルデータ d4PDFを本研究で活用するにあたり,観測データの処理法と同じ扱いができるように,バイアス補正も組込んで地点データ化して,人口減少地域の洪水リスクの検討を試みた.d4PDFから降雨量のさまざまなサイズでの空間平均を用いた検討も行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
同時生起確率の評価に必要な多変量極値分布の基礎理論について,各地点に来襲する外力の極値の閾値を超過する生起数のデータを対象に既存の数学理論を順調に再構築中である(北野と志村).これは,生起率を母数に含む多変量ポアソン分布を基礎とする導出であり,既往の数学理論である多変量極値分布を,現実の来襲する外力の統計特性を把握する上で不可欠となるからである.その背景に,従来の多変量極値分布は,外力の極値の相関特性に対して,間接的な取扱いとなっていることがあり,現時点の再構築中の理論からも,そのことが明らかになった.また,今後の解析に必要となる d4PDF の降雨データをアメダス地点データと同じような扱いができるデータベースを構築できた(渡部).また, d4PDF を対象に流域平均雨量や継続時間を考慮した予備解析(田中茂信,田中耕司)や d4PDFのアンサンブル標本にもとづく統計解析を裏付けるためのベイズ統計手法を開発中である(上野と北野).
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Strategy for Future Research Activity |
気象分野をはじめとして,気象データや d4PDFの数値計算データに対して,分布関数を仮定したパラメトリックな解析手法よりも,特定の分布関数を用いないノンパラメトリックな手法が好まれる.次年度には,ノンパラメトリック手法をベースにした理論展開を行なう.(多変量)極値分布や一般化パレート分布のような分布関数そのものは使用しないものの,極値理論での知見を全く利用しないのではなくて,極値の漸近安定の条件(すなわち,生起頻度の比例性ならびに,その多変量版)のみを要請したノンパラメトリックな分析手法を構築することをメインに研究を推進する予定である.なお,その際には,土木分野の応用を見据えて,空間相関を的確に把握しないと解決できない実務上の問題に係る予備計算などを行う.また,ベイズ手法によるアプローチも準備する.なお,気候モデルの出力結果に対して高解像度化と同時にバイアス補正を行なう統計的ダウンスケールでは,一般に,多変量分布を用いた統計手法が行なわれているが,そこに,多変量極値分布を組込めるか,あるいは,ダウンスケールの結果の診断が可能かといった検討も行う予定である.
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