2019 Fiscal Year Annual Research Report
複合災害を引き起こす自然外力の同時生起確率の評価システムの構築
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18H01543
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
北野 利一 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00284307)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡部 哲史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任講師 (20633845)
志村 隆彰 統計数理研究所, 数理・推論研究系, 准教授 (40235677)
上野 玄太 統計数理研究所, モデリング研究系, 教授 (40370093)
田中 茂信 京都大学, 防災研究所, 教授 (70414985)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 2変量極値統計理論 / 順位を用いたノンパラメトリック法 / 従属性を表現する横断分布 / 従属性を含まない縦断分布 / 同時生起の再現期間 / 流域平均降雨 / ピッカンズ従属関数 / 多変量パレート分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
1変量極値の漸近理論から導出される分布関数は,Jenkinson表現で一意に限定されることは既によく知られている.これに対して,多変量極値の従属性は多種多様であり,数学的な取り扱いも難しいためか,応用分野では未だ十分に活用される段階に入っていない.多変量正規分布と同じ発想で,多変量極値分布をとらえることは,できないことが多くあるばかりでなく,間違った考えに陥ることにもつながるので注意が必要である.すなわち,多変量極値分布の誘導過程が数学的に複雑であり,やや高度な確率論を導入しなれば理解できない事情があるにもかかわらず,十分に理解できていない確率分布関数を用いて,そのパラメータ推定を行っても,そのようなパラメトリック手法では,答えの「数字」を求めただけで,多くの人が納得できる「答え」が得られたことにはならず,得られた結果を間違った解釈をしてしまう可能性もある.そこで,今年度(2019年度)の研究では,数えることをベースとした単純なノンパラメトリックな手法と,その過程で平均操作を加えて曲線を推定できる改良した手法で,ノンパラメトリックに従属性を推定できることを示し,その結果を,各地点の1変量の極値に対して,パラメトリックな推定ができれば,2つを組み合わせることで,従属性についても外挿できることを示した.その方法を,2点間の距離が卓越して従属性に関与すると期待される関東平野の日降雨量に適用した.また,1変量のパラメトリック推定について,閾値モデルの確率分布であるパレート分布を用いる場合に必要となる閾値の選定に,Lモーメントを用いた指標を検討した.また,今後に,現実の問題に応用するための素地となるバイアス補正の体系化や,ベイズ統計手法を用いて,より恣意性が介入しにくい手法の基礎を検討した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多変量極値分布を従属性を含む分布と従属性に関わらない分布に分解することで,従属性を含む分布に対するノンパラメトリック推定について,理論的に検討した(北野・志村).ノンパラメトリックな分布推定について,よりプリミティブなアプローチは,ヒストグラムである.ヒストグラムの幅を,適用するデータから適切に決定する方法をベイズ推定から検討(上野)しており,これをピッカン従属関数のノンパラメトリック推定に応用することを検討中(北野・上野)である.また,1変量のパラメトリック推定について,閾値モデルの確率分布であるパレート分布を用いる場合に必要となる閾値の選定に,Lモーメントを用いた指標を用いることで,年最大値としては本来過小評価にあたる降水量が含まれると,推定される年最大値の形状母数にバイアスが生じ,結果的に我々の興味ある200年確率降水量などが過大評価される問題が解消される可能性があること(田中)を示し,このことは,多変量極値の推定の診断にも有効である.さらに,適用するデータとして,気候モデルの出力値(例えば,d4PDF)も対象とするため,バイアス補正が必要であり,そのバイアス補正の体系化も概略ができた(渡部)ことから,実際の問題に適用するための素地を固めつつあり,おおむね順調に進展していると判断する次第である.
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Strategy for Future Research Activity |
多変量極値の従属性は多様であり,非常に複雑であるが,確率の座標変換(擬似曲座標)を行うことにより,従属性を表現する横断分布と,従属性が含まれない縦断分布に分解できる.この考えに基づいた多変量極値の乱数生成は,20年ほど前に統計数学分野で試みられたが,当時のコンピュータの能力では,繰り返し計算を伴う過程で計算コストがかかるためか,また,その手順に洗練された印象も受けないためか,その実装プログラムは現在パブリックに公開されていない.乱数生成部となる“採択法”で繰返される計算は単純であるゆえに,計算回数に比例するだけであるという計算効率の問題を解消するため,乱数生成部は効率的なメルセンヌツィスターを使用し,繰返し計算は,確定した関係式の最適化の計算処理に残るものの,現在の計算機の能力向上も加えて,現実的な実装を試みる.これにより,同じ一雨に対して,空間的に多地点で同時に生起する降水量の極値データを,確率分布に基づいて複雑な従属性をコントロール可能な乱数生成することが可能となり,実データや気候モデルではまだ実現できない空間的に密で時間的に長期間となる空間多数地点の長期間の超多数アンサンブルデータセットを統計的に生成できることになる.気候モデルから得られる結果には,より現実をモデル化することに起因する複雑さや,サンプルサイズの制約から残る統計的な不確実性も含まれることから,本研究で提案する乱数シミュレーションを用いて,流域平均の統計特性などを整理することは,気候モデルから得られる結果をより正しく解釈することに役立つものと考える.また,これまで統計数学分野では補助的な役割として捕らえられている縦断分布を,パラメータ推定に積極的に用いる新しい手法も開発する.
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