2018 Fiscal Year Annual Research Report
Verification and quantification of export of organic carbon from coastal vegetated ecosystems to outer ocean and subsequent long-term sequestration
Project/Area Number |
18H03354
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮島 利宏 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (20311631)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 隆志 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 准教授 (20513641)
堀 正和 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (50443370)
浜口 昌巳 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主幹研究員 (60371960)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 炭素循環 / 沿岸浅海域生態系 / 有機炭素隔離 / 環境DNA / 生態系モデル / 植生復元 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度はまず浅海域生態系から移出された有機炭素の系外隔離を立証するための方法論としての環境DNA技術の整備を進めた。当初の予定通り、代表的な熱帯性海草3種、マングローブ3種、大型藻類4種に由来する残留有機物の検出を目的としたプローブを確立した。現在のところ、保存状態の良い堆積物であれば約5000年前の試料からも標的DNAを検出できることが分かっているが、同じ植物に由来する有機炭素の量との関係は必ずしも比例関係とならず、隔離有機炭素の定量的評価に課題を残している。一方、予定にはなかったことであるが、堆積物中の貯留有機物を生成した過去の植生を残留DNAから復元するためにサブクローニング法に基づく検出システムを開発し、フィリピンのマングローブ二次林から取得した長期コア試料に適用して有意義な知見を得ることができた。 モデル開発に関しては石西礁湖を対象とした三次元流動場モデルの改良を進めた。鉛直的な水塊構造の動態を精度よく再現できるようになったが、現段階ではまだ堆積物の分配・沈降や再懸濁等の挙動を記述できるところまでは至っていない。 これらの室内作業と並行して、開発中の手法を適用して今後分析を進めることを前提とした現地試料の採集を精力的に行った。6月には石垣島・西表島にて植物試料と予備解析用マングローブ土壌試料を採取、また他の研究課題による調査の機会を利用して、9月にはフィリピン・ブスアンガ島沖合の表層堆積物の面的採取とパナイ島マングローブ林の堆積物柱状試料・マングローブ試料の採取を実施した。地中海沿岸の潟湖Thau Lagoonおよび瀬戸内海大三島沖において、いずれもアマモ場の堆積物コア試料を採集した。採取された試料は、堆積物粒子の表面吸着特性や、炭酸塩堆積物と砕屑性堆積物の違いなどに着目した有機炭素ならびに環境DNA残留特性の解析を進めるべく、必要な分析作業を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度における研究の経過は、環境DNAに対するプローブ技術の開発と改良、モデル開発、現地調査に関してはほぼ予定通りに順調に進んでいる。一方、2018年度の交付申請書の実施計画に記した内容のうち、オゴノリに対するプローブ開発、初期分解過程における酸素曝露の影響評価、化合物別安定同位体比を利用した起源推定の精緻化など、いくつかの細かい項目が未達成となっている。このうち、化合物別安定同位体比の利用に関しては、実試料への適用まで至っていないものの基礎技術の確立は2018年度内に相当な進捗がみられた。また、当初の実施計画にはなかったこととして、沿岸浅海域生態系の過去の植生に対するサブクローニング法に基づく解析手法を導入し、長期土壌コア試料への適用を試みた。その結果、当初は想定していなかった歴史的変遷の観点からの重要な知見が得られており、新たな研究の展望が開かれている。以上のように項目ごとにばらつきはあるものの、全般的にみて本課題は現在のところ順調に進展しており、部分的には当初の予想を超える成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度における方針としては、前年度に確立された環境DNA技術や化合物別同位体比分析に基づく起源推定法を、前年度に採取して保存されている現地試料に適用することが最初の実施項目となる。これにより開発された手法の有効性が立証される。また前年度から引き続き、浅海域植生由来の有機炭素とDNAが同所的または異地的に隔離貯留されるための条件の解析を進め、並行して、環境DNAの定量分析結果から同種植物に由来する有機炭素の貯留量をどの程度まで定量的に評価できるかについて検証を進める。生態系モデルに関しては、堆積物の挙動を組み込むことを最優先課題とし、さらに堆積物の質の違いを記述できるように改良する。また現在開発を進めている石西礁湖以外の系に対しても早急にモデル化に着手する。以上は当初計画されていた内容に従った順当な方策である。 一方、環境DNA開発に関連した細かい課題として、マングローブの分類上の曖昧性の問題や、マングローブ土壌特有のPCR阻害物質が検出の定量性に影響する問題等が浮上しており、これらに対する対応を迫られている。 また過去の植生を復元する目的での環境DNA技術の適用を本課題において副次的に進めてきたが、その結果として、外部隔離される有機炭素の評価においても気候変動等に伴う植生の遷移や、大洪水などの突発的なイベントの影響を考慮しなくてはならないことが明らかになっている。特にフィリピンのマングローブのように、歴史的に重層的な人為影響がかかっている場合にはこの問題が極めて重要である。 これらのテーマは当初の研究計画を超えるもので、本課題の枠内で対応することには無理があることから、将来的にはこれらのテーマに対応する規模の大きな研究課題を立てる必要がある。本研究課題を、そのためのフィージビリティスタディとしての位置づけでも推進することを、今後の方策に含めたいと考えている。
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