2018 Fiscal Year Annual Research Report
バキュロウイルスによる宿主行動操作の神経基盤の解明
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18J00134
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
國生 龍平 金沢大学, 理工研究域 生命理工学系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 宿主操作 / バキュロウイルス / カイコ / BmNPV / Bombyx mori / ゲノム編集 / Cas13d / GAL4-UAS |
Outline of Annual Research Achievements |
バキュロウイルスに感染したチョウ目昆虫の幼虫は異常な徘徊行動を呈する。この現象はウイルスによる利己的な宿主操作であると考えられているが、その詳細な分子・神経機構はほとんど解明されていない。本研究課題は、RNA-seq解析により同定した徘徊行動中の脳で発現量が上昇あるいは低下する遺伝子(Differentially Expressed Gene: DEG)に着目し、遺伝子組換えカイコおよびバキュロウイルスを用いてDEGおよびDEG発現ニューロンの詳細な機能解析を行うことで、宿主行動操作メカニズムの全容を解明することを目標とする。 初年度であるH30年度は、実験材料である遺伝子組換えカイコおよびバキュロウイルスの作出に注力した。まず、使用するカイコ系統の行動観察における適性を調査したところ、N4系統は徘徊行動の観察が困難であったのに対し、w1-pnd系統や白c系統では徘徊行動を比較的長時間観察可能であることが明らかになった。一方、組換え体作出効率の点はw1-pnd系統よりN4系統の方が顕著に優れていたため、現在は組換え体の作出を基本的にN4系統で行い、作出した組換え個体と白c系統個体を戻し交配することで行動解析に用いる組換えカイコ系統を樹立中である。CRISPR/Cas9によるDEGノックアウトカイコや、Gal4/UASシステムによりDEGの過剰発現を行うことのできる組換えカイコを作出中であり、一部の系統については既に組換え体が得られている。また、DEGのノックダウン方法としてCas13dを新たに導入中である。一方、当初利用予定であったエンハンサートラップGal4系統が本実験の目的に足る発現パターンを示さないことが判明したため、現在TAL-PITCh法により神経細胞特異的Gal4系統を作出中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は、遺伝子組換えカイコおよびウイルスの作出が主要な達成目標であったが、遺伝子組換えカイコの作出の進捗状況が想定よりもやや遅れている。 第一の原因は、インジェクション用系統の変更である。概要でも述べたように、当初は予備実験により徘徊行動の観察に適したw1-pnd系統を用いて組換えカイコを作出を幾度も試みたが、この系統は最適なインジェクション条件を整えてもなお卵の孵化率が約5%程度と非常に低かったため、組換え体を得るのが非常に困難であることが判明した。一方、N4系統では30~60%という高い孵化率を達成できたため、インジェクション用系統をN4に変更した。しかし、N4系統は徘徊行動の観察に適さないため、白c系統との戻し交配を行わなければならず、その点でも当初の予定より余計に時間がかかってしまうと予想される。 第二の原因は、Gal4系統の新規作出が必要になった点である。当初はナショナルバイオリソースプロジェクトにより九州大学で管理されているエンハンサートラップGal4系統を用いて実験を進める予定であったが、実際に取り寄せて発現パターンを調査した結果、本研究の要求を満たさないことが判明した。そこで、本研究で用いるためのGal4系統を新規に作出するため、TAL-PITCh法により目的の発現パターンを示す遺伝子領域にGal4をノックインすることを試みている。 一方、上述の問題点は既に解決済であることから、今後は平成30年度よりも効率的に組換え体を作出でき、それらを用いたDEGの機能解析に進む事ができると考えている。また、DEGのノックダウン手法として新たに導入したCas13dのノックダウン性能も評価中であり、今後有用なツールとして期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は主要な実験材料である遺伝子組換えカイコの系統樹立までは至らなかったものの、インジェクションにおける低孵化率の問題は解決したため、今後は各種組換えカイコ系統を最優先で作出し、それらを用いて各DEGおよびDEG発現ニューロンの詳細な性状解析を行う予定である。また、ウイルス感染脳のホールマウントin situハイブリダイゼーションにより各DEGの発現領域およびその時間的変化を調査する。 また、別のアプローチとして、ウイルス感染脳を経時的にサンプリングし、抽出液のHPLC 分析を行なうことで、徘徊行動の惹起にともなう生体アミン量の変化を定量する。変化が見られた生体アミンについては、免疫染色を行なうことで作動性ニューロンの分布を調べ、DEG発現ニューロンとの位置関係を明らかにする。また、生体アミン受容体のアゴニストやアンタゴニストを幼虫に注射し行動活性への影響を調査することで、行動操作における生体アミンの重要性を検証する。
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