2018 Fiscal Year Annual Research Report
Distribution of Oil and Oilseeds in the Early Modern Period
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18J00811
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Research Institution | Naruto University of Education |
Principal Investigator |
島崎 未央 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 油 / 絞油業 / 大坂 / 和泉 / 堺 / 市場 / 流通 / 若者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、畿内諸都市を拠点に、畿内周辺と西日本諸国に広がる油・種物の流通構造を、生産・流通の担い手の視座から復元すること、その際に、幕府の統制政策や個別領主支配との関係も含めて総合的に描くことである。 そのためには、(A)畿内諸都市における油・種物の取引構造を復元し、(B)畿内近国・西日本諸国の生産・流通構造を、ⅰ大坂等の公認の商人仲間との関係、ⅱその背景にある幕府の統制政策の性格、ⅲ個別領主支配の特質、に留意して分析することが有効である。 初年度にあたる2018年度は、①油の生産・流通に即して、幕府が制定した油方仕法の枠組みと、油の産地における取引の実態を突き合わせた総体的把握を目指し、②19世紀における村落社会が、絞油業を組み込みつつ、どのような変化を遂げるのかを検討した((B)のうち畿内の分析)。 ①泉州北部から大坂に油を出荷する際、油方仕法では荷の継ぎ立てのみ許された堺の荷次が、樽の詰め替えに伴う決済も担う商慣行があったことを指摘し、法的位置づけとは関係なく、産地と大坂の取引において重要な役割を果たし続けたことを明らかにした。また、天保5(1834)年に認可された堺油市場の設立過程に注目し、実現を図った幕府官僚の動向だけでなく、取引を担う生産者や商人の利潤追求も含めて、その実現過程や、設立後に生まれた新たな矛盾を明らかにした。 ②19世紀の村掟を分析し、地域の若者と奉公人、絞油業の出稼ぎ人がもたらす問題を検討したほか、共通する関心から、弘化3(1846)年の和泉における若者の密通と堕胎の取締りにも注目した。 なお、2018年3月より2019年1月まで国際的な活躍が期待できる研究者の育成事業「周縁的社会集団と近代-日本と欧米におけるアジア史研究の架橋」(代表:大阪市立大学・塚田孝)で海外派遣されており、明治維新150年をテーマにした国際シンポジウムで口頭発表も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来の油生産・流通に関する研究では、幕府による油方仕法や政策議論を中心に取り上げてきたが、今年度の研究では、とくに仕法と取引慣行との相剋や矛盾を、実際の油生産・流通の担い手に即して解明し、論文発表できた。 また、新たに今年度は、絞油業に不可欠な労働者層に着目した。都市大坂と比較して、村方では出稼ぎ労働者より地域の部屋住み層の需要が高く、部屋住み層も雇用機会を独占しようとするなど、地域における労使関係の一端がみえてきた。とくに絞油業の拠点である一つの村に即して19世紀の若者問題を検討し、当時の地域社会の抱えた課題や矛盾を、村政はもちろん、村落下層の実態を含めて捉えることが可能となった。ここでは若者問題や堕胎取締を介して、絞油業という〈生産・労働〉の側面だけでなく、人口・婚姻・出産といった〈生活〉の側面へも視野を広げ、当該地域の社会構造を全体史的に把握することも目指している。絞油業には留まらない、19世紀の地域社会論を展開する可能性もみえてきた。 さらに今年度中には、イエール大学やシンガポール国立大学に派遣され、一次史料の読解と英訳を行う共同研究に参加し、国際学会・シンポジウムで発表できた。またそれらの成果を基に2本の英語論文を執筆した。アメリカの歴史研究から刺激をうけ研究の視野を広げると共に、今後アメリカの若手研究者と交流を重ねる土台づくりができたことを、今後の共同研究と成果の発信に活かしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
1)基礎史料調査 (A)と(B)の研究計画の推進に必要な史料調査と分析を引き続き実施する。具体的には、(A)企業所蔵の大坂油問屋の文書、(B)畿内の在郷町である平野郷町、播磨国の大庄屋の家文書などの調査を予定している。 2)西国諸国の先行研究収集 (B)西国諸地域での油の生産・流通構造の解明を進めるにあたって、各自治体史から関係史料の収集をすすめる。 3)和泉における19世紀の地域社会論 初年度の成果である「史料紹介:泉州泉郡池田下村慶応3年正月 村中規定連印帳」を継続し、村掟の各箇条で言及されるテーマについて池田下村の庄屋家文書である高橋家文書や森内家文書と掛け合わせた分析を進め、学会発表および論文として発表する準備を進める。
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Research Products
(10 results)