2018 Fiscal Year Annual Research Report
沖縄戦後史像の再構築―米軍占領期における労働・財政問題を中心に
Project/Area Number |
18J01046
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
古波藏 契 明治学院大学, 社会学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 沖縄近現代史 / 冷戦史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は戦後沖縄における米国現地当局(USCAR)の経済局文書を中心に収集・分析し、沖縄統治における経済政策の役割を中心に研究を進めた。具体的な検討対象時期は1958年から1964年頃までとした。先行研究において、1958年は米国の沖縄統治政策の画期として位置づけられている。その内容は、積極的な外資導入を軸として経済開発を強力に進めることで、米国施政権に対する住民からの合意調達を企図したものとされてきた。 本課題で着目するのは、この新路線が労働や財政といった分野にまたがって展開された点である。筆者のこれまでの研究では、同時期における外資導入の積極化が従来の弾圧的な労働政策からの方針転換を伴い、沖縄における労働組合の組織化を急激に促進していく過程を明らかにしてきた。ここに、資本に対して活動の自由を拡大する経済政策と、労働運動の合法化を進めた労働政策との関係を整理する必要が生じる。そこで当局内部文書を分析し、当局経済政策の内幕を明らかにするとともに、他の政策分野との関連性を検討した。 そこから明らかになったのは、排他的施政権の維持という長期的な目標に沿って対沖縄経済政策を形成した米軍の現地当局と、短期的な経済的利益を追求する現地の米国企業との間には常に一定の対立関係が生じたという事実である。後者は在沖米国商工会議所を組織して自らの利益を米国の対沖政策へ反映させようと試みていたが、そうした動きは沖縄の政治的安定性を重視する軍部の意向と度々衝突した。こうした事実は、米国の対沖政策において看過されてきた資本に対する統制という側面を示すものであり、また同時期における労働政策の育成路線への転換と軌を一にするものと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果から明らかにされたのは、米国の沖縄政策の形成に関わる軍部以外のアクターの重要性である。従来の沖縄戦後史研究においては、復帰の是非を中心に、しばしば軍部と対立する見解を取ってきた国務省の存在が重視されることがあっても、他の省庁や民間企業等は看過されてきた。本研究課題においては、こうした隠れたアクターの重要性を浮き立たせることを重視しているが、本年度の研究成果はそれを具体的に展開することに成功したと評価できる。 また、従来「米国」と一括されてきたカテゴリー内部に様々なアクターの相互に緊張関係を持った動きが存在したことを明らかにすることで、その力関係のあり方や変化から、米国の対沖政策の形成過程をより重層的に捉えることができる。こうしたアプローチにより、沖縄戦後史研究の枠組みを冷戦史的視座へと接続し、専門分野の枠を超えてより幅広い文脈から米国沖縄統治の意味を問うことが可能になると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は主に、米軍当局経済局文書を用いて研究を進めた。沖縄統治期の米軍当局側資料や国務省関係の資料は1990年代後半から沖縄県公文書館および国会図書館でも閲覧できるようになっている。しかし、陸軍省や国務省等、沖縄に直接関係すると見做された省庁以外の資料については、依然として米国ナショナル・アーカイブでの追加収集が必須となる。本年度の研究成果からも明らかなように、本研究課題の遂行に当たっては、商務省や労働省、国際開発庁等の米国政府内組織、あるいは民間ビジネスといったアクターの視点が重要になる。 そこで次年度は、米国ナショナル・アーカイブでこれら関係機関所蔵の沖縄関係資料の収集を行う。5月末より2週間の日程で在米調査を実施し、収集資料の分析を基に研究課題を進める。
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Research Products
(4 results)