2019 Fiscal Year Annual Research Report
「連邦主義の現代的展開-旧東欧連邦解体の事例とEU統合の原理」
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18J01331
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
大場 佐和子 同志社大学, 政策学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ボスニア / デイトン憲法 / EU加盟問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度に実施した研究の主要なテーマは、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの憲法システムとEU加盟との関連を明らかにすることであった。本邦の先行研究においては、ボスニア国内の政治情勢の分析の中でボスニア戦争の停戦合意(いわゆる「デイトン合意」)の一部を構成する憲法を基礎とした「デイトン体制」について論じられることはあったが、憲法制度そのものや憲法裁判所の判例、司法システムなどに関する研究成果はこれまで発表されていなかった。 ボスニアのEU加盟問題に関しては、欧州人権裁判所によって、ボスニア憲法の定める選挙制度が部分的に欧州人権条約違反状態にあることが3度にわたって判断されたにもかかわらず、当該制度が一向に是正されないことが加盟プロセス進展のネックとなっている。こうした問題については、先行研究によって明らかにされてきたボスニア国内政治の動向のみならず、ボスニアの憲法制度ならびに憲法裁判所の姿勢などに関する検討も加味される必要性があった。さらに、EU加盟プロセスに関する先行のEU研究、第5次EU拡大の際の各加盟候補国が辿ったプロセスや問題点なども参考にしながら、ボスニアの加盟プロセスの進捗状況と問題点について研究を進めた。 以上の研究成果については、国内外の研究会において報告を行なった。また、EU学会研究大会においてポスター発表を行った際には多くのフィードバックを得た。EU学会年報にも論文が掲載されることになっている。その後、さらに発展させた研究の成果をEU学会関東部会において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は、旧東欧地域の連邦国家であったチェコスロヴァキアおよびユーゴスラヴィアの連邦制体形成から解体までの過程における「国民」形成に関する比較を行うことを研究目的としていた。しかし、研究を進めていくうちに研究範囲を絞る必要性を実感していたところ、たまたまボスニア・ヘルツェゴヴィナにおける調査研究に同行する機会を得た。旧ユーゴ連邦を構成したボスニアは、冠民族を持たない複数民族による事実上の連邦国家である点に鑑みれば旧ユーゴ連邦の縮小版とも言える。民族紛争を経て国家再生を目指すボスニア憲法では主要3民族の対等と平等が最重視されているが、そのことでいくつもの困難な問題点が生じている。本研究では、憲法システムを軸として、既存の研究とは異なる視点から連邦体制と「国民」形成との問題について取り組む方向性を見出し、実際に研究成果を上げているものと考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、ボスニア憲法裁判所(国家レベルと連邦構成体レベルの合計3つ)を主要なテーマとして、これらの判例とスタンスならびにそれらの変遷について研究を深めていく予定である。 5月には国際学会において、6月には比較法学会においてそれぞれ研究報告を行う予定であったが、新型肺炎拡大のため、前者は本年12月に、後者は来年度に延期となっている(どちらもエントリー継続)。 論文についても、国際学会の論文集などへの掲載が予定されている。
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