2019 Fiscal Year Annual Research Report
米国統治期の沖縄における非琉球人管理体制と主体編制の実証的研究-1960年まで-
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18J01630
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
土井 智義 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 沖縄戦後史 / 外国人・非琉球人 / 移民 / 市民権・法的地位 / 帝国主義 / 植民地主義 / 法社会学 / ポストコロニアル研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、前年度に構築した資料収集方法を基礎として積極的に新資料を調査しつつ、本年度の個別課題(奄美返還以降の非琉球人管理制度の変遷、琉球住民の地位問題)に取り組んだ。また本研究にかかわる理論研究等も参照し、研究課題全体の分析方法も模索した。 史料面では、沖縄県公文書館所蔵琉球政府及び米国政府文書、鹿児島県立奄美図書館所蔵奄美返還関係資料、国立公文書館所蔵琉球政府入管文書、米国国立公文書館新館所蔵国務省文書(RG59)等を収集した。また沖縄現地発行の新聞記事も通時的に探査した。文書史料に加え、非琉球人当事者への聞き取りも実施した。これら収集資料は、データ化を一部委託して作業の効率化を図っている。また理論面では、強制送還という実践の種差性を調査すべくミシェル・フーコーに由来する規律権力や統治性に関する研究を参照した。また琉球列島の住民に関する法的地位問題を米帝国主義のなかで分析すべく、20世紀転換期のプエルトリコ史に関する諸研究を調査した。以上により、次のことを解明した。 まず強制送還の変遷を軸に非琉球人管理制度を検証した結果、同制度が非琉球人という人種主義的範疇を支えに、登録違反に対する処罰から法違反なき者(貧困状態等)への行政処分までも包含する広範な社会管理に適合していったと論じた。 つぎに琉球住民の法的地位については、日本国籍との関係に着目して分析した。両者の関係は、対日講和条約が決定したのではなく、まず沖縄外の文脈で54年ハワイ連邦地裁判決が、沖縄出身移民の法的地位に関して沖縄現地在住者を含めて「住民」の日本国籍が残存するという解釈を示し、その後、米国の帝国的回路を通じて同判決が琉球住民の国籍解釈にも引用された結果、確定したと論じた。この点は、植民地国家・琉球列島という視点の重要性を明示するものである。 研究成果の一部は、論文や学会報告により公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題は、「米国統治期の沖縄における非琉球人管理体制と主体編制の実証的研究-1960年まで-」であり、制度の個別具体的な実証的解明と同時に、沖縄戦後史における米国統治期自体を歴史化することを目的とする。 これまで、各年度に設定した個別テーマ(非琉球人管理制度の意義、奄美返還以降の非琉球人管理制度の変遷、琉球住民の地位問題)に取り組むため、日本国内の各機関(沖縄県公文書館・国立公文書館・外務省外交史料館)をはじめ、米国国立公文書館に赴き、資料調査・収集を積極的に実施し、いくつか重要な新史料を収集した。また史料収集に際しては、日本所在の諸機関が所蔵する米国政府文書と米国国立公文書館所蔵資料との異同に留意し、効率的な資料調査方法を追求した。 また2019年度からは、これまで主に取り組んできた非琉球人管理体制の実証に加え、米国統治下に参政権等を付与された「市民」に相当する琉球住民という法的地位の問題にも本格的に取り組んでいる。これらの問題を、米国の帝国主義のなかの沖縄(琉球列島)統治という構造との内在的関係から検証するため、米国史の関連分野(とくに米西戦争の結果領有されたプエルトリコの歴史や移民研究)をフォローし、学際的研究の努力も行っている。さらに上記の諸成果を統合的に把握すべく、国家と法の関係における主権(sovereignty)と管轄権(jurisdiction)の差異の検討に着手している。 研究成果の一部は、研究論文や学会報告として公表しただけでなく、在沖奄美出身者の当事者団体(沖縄奄美連合会)主催講演会でも公開するなど、研究で得た知見を積極的に社会に広く還元するよう努めた。 上記により、沖縄の歴史事象を米国帝国主義に定位するという必要から、新しく米国(植民地)史を吸収する作業に多少の困難が生じているが、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は次の三点を中心に研究を推進する。 第一に、琉球住民の法的地位を、米帝国主義のなかの植民地主体として分析する。前年度調査により日本国籍との関係で琉球住民の法的地位が明らかになり、日本国籍が否定されず残存するという条件を確認した。今年度は地位問題が、条約ではなくその後の判例等を通じて画定した過程に着目し、沖縄の状況を20世紀転換期以降の米国によるプエルトリコ支配等と連動する動きと捉え、比較植民地史的観点から琉球住民の渡航文書と外交保護問題を分析する。その際、近代国家の旅券発給及び外交保護権について、とくに旧宗主国の制度が伝播したと安易に前提とする西洋中心主義を排してそれらの植民地系譜を重視する諸研究を参照して検証する。 第二に、講和条約が統治範囲を決定し、米国の沖縄統治の全てが条約に規定されたとみる条約決定論的立場を批判する。条約決定論に依拠する研究の多くは、いわゆる「残存/潜在主権とは何か」という問いに解釈を収斂させ、比較植民地史的観点から沖縄を検証する作業を見落としていた。本研究では、67年まで米国が琉球住民の渡航文書と外交保護を優先行使した史実に鑑み、主権概念を特権視する西洋中心主義的な既存研究を相対化する近年の帝国主義史や国際法研究に学び、植民地管轄権の正当化をめぐる歴史から再考する。 第三に、在沖の奄美及び本土出身者ら本土籍者について制度及び生活史を継続して調査する。特に1960年までの状況を詳細に把握すべく、国勢調査等から各市町村別人数や総人口比を明らかにし、同時代状況を再構成する。また非琉球人経験者の聞取りも実施し、生活史的観点を導入する。 上記のため、沖縄県公文書館等の日本国内機関及び米国国立公文書館等にて新たに資料を収集し、研究成果は、学会誌等に投稿する。懸念されるCOVID-19の影響で出張が困難な場合、現地調査代行業者等を検討する。
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