2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J02110
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
岡崎 聡 京都市立芸術大学, 音楽学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 聴覚 / 知覚 / 同時性知覚 / 時間分解能 / 時間知覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
1) 2音の同時性の範囲が音圧の関数としてどのような振る舞いを示すのかを特定する心理物理実験を行った。その結果,同時性の範囲が2音の周波数距離の関数として示すV字型関数が,小さな音圧でも再現されることが,周波数領域f1 = 800 Hz条件でも確認された。さらに,音圧の影響は,V字型関数の折点より右側で主に見られることも確認された。このことは,本研究が提唱している,2音の同時性の範囲が2つの異なるメカニズムによって決定されているとする説と合致している。
2) 2音の同時性の範囲が周波数構造の関数としてどのような振る舞いを示すのかを特定する心理物理実験を行った。実験には2純音調波複合音を用いて,同時性の範囲を測定した。その結果,同時性の範囲は,2純音調波複合音の基本周波数の間の周波数距離の関数としては,これまで本研究が明らかにしてきた同時性の範囲の法則には従わないことが示された。しかしながら,2純音調波複合音のそれぞれの周波数成分に同時性の範囲の法則を適用すると,2純音調波複合音に対する同時性の範囲が予測できることが示唆された。
3) 聴覚経路にある蝸牛神経核では,2音が入力され,その周波数が近いときに,神経発火の促進が起こることが知られている。もしこの神経生理学的機構が,知覚に影響を与えているのならば,周波数が近い場合に,2音に対するオンセットの知覚精度が向上する可能性がある。この仮説を調べるため,本研究は,2純音複合音に対する単純反応時間のばらつきを測定する心理物理実験を行った。その結果,2純音複合音に対する単純反応時間のばらつきは,2音が近い場合でも特に向上しないことが示された。この結果は,オンセットの知覚精度が周波数距離が小さい場合にも向上しないこと,ひいては,同時性の範囲の決定要因にはならないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1) 2音の知覚的同時性における音圧の影響,2) 2音の知覚的同時性における周波数構造の影響,3) 知覚的同時性を決定する聴覚基礎過程,の3件について実験的検討を進めた。特に,3) は当初の計画以上に研究の進展が見られた点である。一方,当初予定していた4) 同時性と時間順序との関係についての検討は順延された。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により,本研究が必要とする防音室での心理実験の実施が困難となっている。そこで,1) 実験が不可能な時期と,2) 防音室外での実験が可能な時期,3) 防音室実験が可能な時期,の3段階を想定して今後の研究を進める。 1) 実験が不可能な時期:これまで収集してきたデータの解析および論文化に集中する。 2) 防音室外での実験が可能な時期:ピアノ演奏データを広い部屋で一人ずつ時間を空けて収録する。得られたデータから音楽における同時性の振る舞いについて解析する。 3) 防音室実験が可能な時期:本来の研究計画にある実験を実行する。
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