2018 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀後半から20世紀前半のロシア思想における技術の問題
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18J02116
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
小俣 智史 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 技術 / 技術哲学 / ピョートル・エンゲリメイエル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、19世紀後半から20世紀前半のロシア思想における「技術」理解とその影響を明らかにする試みの一環として、帝政期からソヴィエト期にかけて活躍した技術者ピョートル・エンゲリメイエルの著作を入手し、その検討を行うという研究計画にもとづき、ロシア(サンクトペテルブルグおよびモスクワ)にて資料を収集した。 2018年8月17日から31日にかけてサンクトペテルブルグのロシア国立図書館(Российская национальная библиотека)においてエンゲリメイエルの著作(単著および"Техническое образование"などの雑誌に掲載された論文)を手に入れた。加えて帝政期の総合技術協会の活動についての資料や、技術哲学一般についての文献も入手することができた。 2019年2月21日から28日にかけてモスクワのロシア国立図書館(Российская государственная библиотека)において資料収集を行い、エンゲリメイエルの著作("Экономическое значение современной техники"などの単著および"Бюллетень Политехнического общества"などの雑誌に掲載された論文)を手に入れた。加えて帝政期およびソヴィエト期の技術教育についての資料も手に入れることができた。 ロシアで収集した上記の資料を分析し、来年度以降学会で発表するための準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画にもとづき、本年度はエンゲリメイエルの技術哲学をはじめとする19世紀後半から20世紀前半のロシアにおける技術理解に関する資料収集と、収集した資料の分析に多くの時間を費やした。来年度以降、国内外の学会・報告会で発表を行うための準備を整えることができた。 エンゲリメイエルはロシアで最初の技術哲学者として、またロシア技術協会や総合技術協会に所属した技術者として知られてきた。しかし、エンゲリメイエルにはロシアにおけるエルンスト・マッハの紹介者としての一面があり、同じくマッハに注目していた文学批評家ドミトリー・オフシャニコ=クリコフスキーらのグループが出版していた雑誌"Вопросы теории и психологии творчества"に技術哲学についての論文を寄稿していることは、従来のエンゲリメイエル研究ではそれほど重視されてこなかった。本年度の調査の過程で、こうした文学批評と技術哲学の接近に注目することで、エンゲリメイエルの技術哲学が当時どのように位置づけられていたのかを示すことができるのではないかと気づいた。 また、ロシアの宗教思想における技術観を明らかにする手掛かりとして思想家ニコライ・フョードロフの技術観に注目し、発表準備を行っている。フョードロフの思想は19世紀のロシア思想がテクノロジーと接点をもった例であり、その独特の技術観について検討することで、他のロシアの思想家・哲学者たちの技術観を検討する際に有用な論点を見いだすことができると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまで収集した資料を用いて、国内外の学会で研究発表・論文投稿を行っていく。来年度は以下に挙げる内容の発表および論文執筆を予定している。 本年度の調査の過程で、エンゲリメイエルとオフシャニコ=クリコフスキーらのグループは、マッハ哲学や創造・創作への注目など共通する問題意識を抱いていたことが明らかになった。来年度はこうした技術哲学と文学批評との接点について国内の学会で口頭発表を行う予定である。具体的には、"Вопросы теории и психологии творчества"誌に掲載されたエンゲリメイエルの2つの論文を手掛かりに、エンゲリメイエルの技術哲学が創造・創作をめぐる当時の議論の中でどのような意味を持っていたのかを論じる。発表の際に得られるであろう意見をもとに論を深めて論文を執筆し、国内の学会誌へ投稿したい。 加えて、ロシア思想史における技術理解の端的な例としてフョードロフの思想に注目し、2019年6月にロシア(モスクワ)で行われる国際学術報告会で口頭発表を行う予定である。同発表ではフョードロフのテクストに顕著に見られる距離と接合のメカニズムを手掛かりとしてその技術観について論じる予定である。発表に際して得られるであろう海外の専門家たちの意見を踏まえて論を深め、検討対象を広げたものを国内の学会誌に論文として投稿したいと考えている。 これらの発表および論文の準備のために、ロシアで追加の資料収集にあたる必要がある。
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