2018 Fiscal Year Annual Research Report
光源の違いによる近現代アーカイブズの劣化に関する実証研究
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18J11252
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
高科 真紀 学習院大学, 人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | アーカイブズ / 保存環境 / 資料保存 / 展示照明 / LED化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、紙資料の中でもとりわけ光に脆弱な近現代アーカイブズを対象に、光源ごとの劣化症例の分析をおこない、蛍光灯・白熱灯等の従来光源を対象とした照明管理の基準・ガイドラインが、光源特性の異なるLEDにおいても適応可能かを検証し、LEDを含めた照明管理ガイドライン策定に向けた提言を目指すものである。 2018年度は、1970年代以降の展示室・収蔵庫を対象とした国内外のアーカイブズの照明管理についてガイドラインや規格類の分析をおこない、将来的なガイドラインの策定で必要となる基礎的要件を整理した。併行して、LEDに切り替えた国内4機関を対象に、照明管理と照明選択の基準についての聞き取りと、測定調査を実施し、光源に注目したアーカイブズ保存環境の実態を検証した。国外では、イタリアに赴き、展示室・収蔵庫内照明の選択基準や、LEDだからこそ実現可能となった色温度の変更やライティングシステムなど照明の新たな可能性を探求する取り組みや、写真を対象とした劣化症例について情報収集をおこなった。 さらに、近現代アーカイブズを対象とした保存状況の調査と、自然光に起因する近現代アーカイブズの劣化症例の検証に着手した。保存状況の調査では、特に光に脆弱な青図・こんにゃく版・湿式コピーなどの記録素材が含まれる公文書を対象とした国内文書館の状態調査の先行研究を踏まえ、調査票調査の実施にむけた項目を整理した。自然光に起因する近現代アーカイブズの劣化症例の検証については、日本の中でも高温多湿であり、とりわけ紫外線量が多く、資料劣化のリスクの高い沖縄県の民間アーカイブズ(反戦平和資料館ヌチドゥタカラの家、写真家・比嘉康雄アトリエ)を対象に、紫外線量や積算照度、温度・湿度を計測しながら資料の劣化度の検証に取り組んでいる。 上記の研究成果として、国際シンポジウム(於:韓国)での報告と、論文1本を寄稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LED劣化症例の研究調査は、当初オランダを予定していたが、LEDの展示照明の新たな取り組みや、先進的な写真を対象とした劣化症例研究に関する情報を収集するため、調査先をイタリアへ変更した。この調査から、ライティング技術の発展により、従来光源とは異なるLED特有の資料損傷のリスクなど、照明管理ガイドライン策定への提言に向けで検討すべき新たな課題を入手することができた。 「近現代アーカイブズ保存状況の分析と劣化症例の検証」の紙面調査は、2018年度中に調査実施に至らなかったが、早い段階で実施するべく現在、準備している。 2018年度より着手した写真家・比嘉康雄資料を対象とした調査研究の一部は、日本アーカイブズ学会2019年度大会(2019年4月21日開催)で口頭発表をおこなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は研究の最終年度となるため、これまでの調査研究を継続しながら、取りまとめを行っていきたい。 特に、アーカイブズ施設等を対象に実施する紙面調査は、分析にも時間を要するため、早急に実施する。紙面調査から国内のアーカイブズ照明管理の実態を明らかにし、近現代アーカイブズの劣化症例研究の成果を結合させ、本研究の目的とする従来光源を対象とした照明管理の基準・ガイドラインが、LEDにおいても適応可能かを検証したうえで、LEDを含めた照明管理ガイドライン策定に向けた提言をおこなう。
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