Outline of Annual Research Achievements |
本年度は, Erdos-Renyi (1963)によるグラフの非対称性の理論の拡張研究を行った. 彼らは非対称性の尺度としてasymmetry number(AN)を導入し, ANの上界を示すErdos-Renyi不等式 (ER不等式)と確率的手法による漸近最良性の証明を与えた. 報告者は, ダイグラフのANを導入し,対応するER不等式とその漸近最良性を示した. さらに,その漸近最良性の議論から, グラフの場合の証明が簡略化されることを観察し, 漸近最良性がどの大きさのグラフから保証できるかも示した. これらは, Erdosらの結果の改良を考えるうえで重要である. 一方で, 当該研究が,エクスパンダー(グラフ)と密接に関わることも新たに観察した. エクスパンダーは, 「連結性」が高い疎なグラフを指す. その「連結性」は拡大定数とよばれる不変量で測られる. 報告者は, ER不等式の等号成立条件を満たすグラフが, 大きな拡大定数をもつことに着目した. そのうえで, ER不等式の漸近最良性がほとんどすべてのグラフが高い拡大定数をもつ事実を示唆することに気付いた. 以上の観察は, エクスパンダーを調べることで, 当該研究にも貢献できることを示唆する. まず, 報告者はエクスパンダーを新たに構成した. ここでの知見や手法は, ダイグラフのER不等式の等号達成例の構成の議論で応用されている. 加えて, Radoグラフの有限グラフ版であるe.cグラフとエクスパンダーの比較研究を行った. 報告者は, 一方のグラフのクラスがもう一方のクラスを必ずしも包含しないことを明らかにした. さらに, ErdosとMoon によるグラフ理論のある古典的問題へのエクスパンダーを用いた解答も発見した. ここでの議論は, ANの概念の拡張に対するER不等式を示唆すると考えている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,ダイグラフへの拡張研究を通して,ER不等式の漸近最良性の議論が簡略化され, 見通しがよくなることを観察した. これは,ANの下界を示す漸近最良性の議論の改良を考えるうえで,重要な進展であると考える. また,当初予定していた可算グラフのANに関してはあまり進展していないが,そのかわり, グラフ理論の重要な研究対象の一つであるエクスパンダーと当該研究の新たな関係を発見した. これは,グラフの非対称性の研究の新たな側面を開拓する端緒となるものである. エクスパンダーの構成で得た知見は,ダイグラフに対するER不等式の等号達成例の構成議論でも応用されており,グラフに対しても今後応用できると期待される.さらに,エクスパンダーとRadoグラフの有限グラフ版であるe.c.グラフとの関係の考察や,グラフ理論の問題への応用の発見などの新たな結果も得ている. さらに,構成手法を応用して,統計的実験計画法に関する共同研究にも参画した. 研究業績として,ダイグラフへの拡張研究に関する論文が採択され,エクスパンダーに関する結果も現在合計で4本の論文(arXiv:1901.10734, arXiv:1901.10733, arXiv:1902.03423, arXiv:1902.10204)としてまとめ,それぞれ国際誌に投稿済みである.また,上記の統計的実験計画法への応用研究の成果も,1本の論文として投稿されている.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,ダイグラフへの拡張研究で得た知見をもとに, オリジナルのER不等式の漸近最良性の議論の改良を進める. また, 本年度得たエクスパンダーに関する成果をもとに, エクスパンダーの構成も進展させる一方, 拡大定数の高いグラフの構成で, ER不等式の等号達成例を与えることも検討したい. さらに,エクスパンダーに関する成果では,Cayleyグラフが大きな役割を果たしているが,ここで得た知見を, Radoグラフなどの可算グラフのCayleyグラフ表示の研究にも応用していきたい.
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