2018 Fiscal Year Annual Research Report
アミロイド凝集過程におけるアポリポ蛋白Eのアイソフォーム特異的な作用機序の解明
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18J11715
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
粉川 明日香 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | Alzheimer’s disease / apolipoprotein E |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病 (Alzheimer’s disease; AD) 発症の遺伝的な危険因子として、apolipoprotein E (APOE) 遺伝子のε4アレルが報告されている。疫学的な調査より健常人ではε3アレルの保有頻度が最も高い一方で、ε4アレルを1つ保有するとAD発症リスクが約3倍、2つ保有すると約12倍に高まることが示された。しかしapoEがどのようにAD発症に関与するかその分子機序は未だ不明である。 本研究ではapoEがアミロイドβタンパク質 (amyloid-β protein; Aβ) 代謝を制御すると仮定し、アイソフォーム特異的を発揮する分子機序の解明を目指した。Aβ代謝をin vivoで検討するために、ADモデルマウスとしてアミロイドβ前駆体タンパク質 (amyloid-β precursor protein; APP) を神経細胞特異的に過剰発現するAPP tgマウスを用いた。これを内因性マウス型apoEの遺伝子座にヒト型apoE3をノックインしたapoE KIマウスと掛け合わせた (APP tg/apoE e3/e3)。 はじめに脳内のAβクリアランスを評価した。若齢APP tgマウスおよびAPP tg/apoE e3/e3マウスの海馬間質液をin vivoマイクロダイアリシス法により回収した。その結果、両者のAβ定常濃度および半減期が同程度であった。 続いて免疫組織化学により高齢APP tgマウスおよびAPP tg/apoE e3/e3マウスの脳内Aβ蓄積量を評価した。APP tgマウスでは脳全体に大型のAβ斑が多数見られたのに対して、APP tg/apoE e3/e3マウスではAβ蓄積量が著しく減少した。 そこで本研究では、apoEがAβ凝集過程に及ぼす影響に着目し、apoEがアイソフォーム特異性を発揮するメカニズムの解明を目指した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究ではapoEがAβ代謝にアイソフォーム特異性を発揮する分子メカニズムを明らかにすることで、新規AD治療法の開発を目指している。上述のようにAPP tgマウスおよびAPP tg/apoE e3/e3マウスにおいて、Aβクリアランスは同程度であるにも関わらず、APP tg/apoE e3/e3マウスではAβ蓄積が著しく減少することを明らかにした。そこでapoEがAβの凝集を規定することで蓄積量に差が生じたと仮定し、以下の検証を進めた。 Aβがβシート構造をとって線維形成する過程はAβ斑の出現に先立ち重要であるが、in vivoで観察することは困難である。そこでβシート構造を特異的に認識する蛍光色素Thioflavin T (ThT) を用いたin vitro Aβ凝集実験により、apoEがAβ凝集に与える影響を検討した。その結果Aβ単独をインキュベートすると凝集が速やかに進むのに対して、マウス型apoEを添加するとAβ凝集開始が遅延することが明らかとなった。さらにapoE3の添加は、マウス型apoEに比してAβ凝集抑制効果が弱いことがわかった。 次にapoEのAβ凝集抑制効果をin vivoで検討した。複数の先行研究や当研究室から、Aβを含む脳ライセート (Aβ凝集核) をAPP tgマウス脳に接種するとAβ蓄積が誘発されることが報告されている。本研究ではAPP tgマウスおよびAPP tg/apoE e3/e3マウスに高齢APP tg由来の脳ライセートをインジェクションし、一定期間インキュベートした。するとAPP tgマウスでは内因性のAβ斑に加えて、凝集核によって誘発されたと考えられるAβ蓄積が認められた。一方でAPP tg/apoE e3/e3マウスではAβ蓄積の有意な増加は認められなかった。これはapoE3が強力なAβ凝集抑制効果を有することを示唆する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究ではapoE3が持つAβ凝集抑制効果に着目して、将来的にapoEを介した新たなAD治療法を開発する可能性を模索している。モデルマウスを用いて、脳内にapoE3を過剰発現させることによってAβ蓄積量を減らすことができるか検討する。またapoEをターゲットとした小分子化合物を探索するに先立ち、apoEの機能ドメインを特定することは重要であると考えた。そこで以下の実験を並行して進め、本研究を遂行したいと考えている。 はじめにアデノ随伴ウイルスベクターを利用したapoE過剰発現系を確立する。野生型マウスを用いてインジェクションする脳座標やウイルス量の条件検討を行う。続いてAPP tgマウスにapoE3を過剰発現させた際にAβ蓄積量が変化するか確認する。さらにapoE4を過剰発現させた場合にAβ蓄積量がどの程度減少するかもあわせて検討する。ヒト型apoE [マウス型apoE] が機能獲得型あるいは機能欠損型であるか調べるために、APP tgマウスおよびAPP tg/apoE e3/e3マウスに両者をインジェクションし、Aβの蓄積量や形態の変化を観察する。 マウス型apoEはヒト型apoEとアミノ酸配列が約70%相同であるにも関わらず、Aβの凝集および蓄積に与える影響が大きく異なることが本研究の検討により明らかになった。そこでapoEの機能ドメインを同定するために、ヒト型apoEとマウス型apoEを様々な長さに分断し、それらを繋ぎ合わせて、ヒト型/マウス型apoEのハイブリットを作出する。そしてAβとの相互作用の程度を定量し、apoEの機能を発揮するドメインを特定する予定である。最後に本学の小分子化合物ライブラリーを利用してターゲットドメインに適合する化合物を探索する。
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Research Products
(2 results)