2018 Fiscal Year Annual Research Report
線虫を用いた、成長にともなう行動パターン変化を制御する機構の解析
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18J11948
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
日野 喬央 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 成長 / 嗅覚 / 線虫 / 行動変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
幼虫期にジアセチル走性が強くなったqj99変異株の原因遺伝子の候補である12個の遺伝子について、ジアセチル走性を測定した。これらの変異株では幼虫期特異的な走性の亢進は見られず、これらの遺伝子がqj99変異株の原因遺伝子ではないことがわかった。このことは、qj99変異株型の表現型の判定が想定していたより難しく、SNPマッピングの精度が低かったことが原因であると考えられる。 成長にともなうジアセチル走性の亢進において、egl-4遺伝子がどこで機能するのかを調べ、ジアセチルを受容するAWA嗅覚神経と別の感覚神経ASI両方でのegl-4遺伝子の発現が必要であることがわかった。ASI感覚神経は、多様な神経ペプチドやTGF-βシグナルを放出することから、これらの因子が成長にともなうジアセチル走性の亢進に関わっているのかもしれない。さらに、egl-4変異体の走性異常は、ジアセチルを受容するAWA嗅覚神経の反応の低下が原因であるのか、カルシウムイメージングにより解析したところ、AWA嗅覚神経のジアセチル応答には変化が見られなかった。このことは、EGL-4は、AWAより下流の嗅覚回路に作用することを示唆している。そこで、AWAからの入力を受ける神経をそれぞれ欠損させたときのegl-4変異体のジアセチル走性を測定した。その結果、AIY介在神経を欠損させるとegl-4変異体のジアセチル走性が強くなったことから、egl-4変異体の走性異常にはAIY介在神経が必要であることがわかった。egl-4変異体のAIYのジアセチル応答には変化が見られなかったことから、egl-4変異体ではAIYとその下流の神経間での情報伝達が変化している可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
成長にともなう走性行動の変化を引き起こす分子機構を解明するために、その機構に関わる因子に異常のある変異体を単離したが、この変異体の原因遺伝子の同定が困難であることがわかった。改良した測定系においても、幼虫の走性の評価は難しかったこと、単離した変異体の表現型が不安定であったことが原因であると考えている。qj99変異株の原因遺伝子を特定できなかったことに伴い、当初予定していた幼虫期特異的にジアセチル走性を抑制する分子機構の解析は行えなかった。 一方、予定を前倒しで行った、もう一つの変異体であるegl-4変異体を用いた、成長にともなう走性行動の変化の基盤となる神経機構の解析には進展が見られた。EGl-4は、匂いを受容する嗅覚神経の機能には影響せず、その下流の介在神経の一部の機能を変化させることでジアセチル走性を成長にともない調節する可能性を見出している。
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Strategy for Future Research Activity |
カルシウムイメージングの結果、egl-4変異体において、AIY介在神経のジアセチル応答には変化がなかったことから、AIY介在神経とその下流の神経間での情報伝達が変化するのではないかと考えた。そこで、egl-4変異体において、AIY介在神経の下流の神経のジアセチル応答や行動における機能を、カルシウムイメージングや神経の破壊実験を行い、AIYとどの神経間で、どのような情報伝達の変化が起きているのかを解析する。この解析により、成長にともなうジアセチル走性の亢進が嗅覚神経回路のどこで起きているのかを特定する。 また、EGL-4はAWA嗅覚神経とASI感覚神経で働くことから、これらの神経のcGMP量が成長にともない変化する可能性がある。cGMPインジケーターを発現させ、幼虫期と成虫期とでcGMP量を比較し、この可能性を検層する。cGMP量に差があった場合、光感受性グアニル酸シクラーゼやホスホジエステラーゼを用いて人為的にcGMP量を変化させた時のジアセチル走性を測定し、cGMP量が走性の変化に重要であることを確認する。さらに、GFPタグを付加したEGL-4タンパク質を発現させ、その発現パターンから、幼虫期と成虫期でEGL-4の局在に変化があるのか調べる。cGMP量を人為的に変化させたときの局在パターンの変化も同様に調べる。これらの解析から、成長にともない走性を変化させるEGL-4の分子機構の一部を明らかにする。
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