2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18J12326
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
伊藤 潤一郎 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 人格主義 / エマニュエル・ムーニエ / ジャン=リュック・ナンシー / ジャック・デリダ / 共同体 / 脱構築 / キリスト教哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、ジャン=リュック・ナンシーの共同体論の生成史を解明することで、20世紀前半のキリスト教哲学における共同体論が、いかに20世紀後半のナンシーの共同体論にまで影響を与えているのかを明らかにした。先行研究においては、1960年代に著作活動を開始したナンシーが、当初キリスト教左派運動・人格主義の影響を受けていたという事実は指摘されていたが、その内実については明らかにされていなかった。この点を明らかにするために、人格主義の創始者であるエマニュエル・ムーニエの思想を読み解くと、諸人格による共同世界を形成するよう個々の人間に神が使命を与える目的論的な共同体論が、ムーニエの思考の柱の一つであり、初期のナンシーもこの思想の影響を強く受けていることが判明した。さらに、ムーニエの共同体論においてもナンシーの共同体論においても、「意味」や「特異性」という語が中心概念となっており、ムーニエからナンシーに至る共同体論の使用語彙の共通性が確認された。しかし、両者は同じ語を用いていても、それぞれ異なった意味内容をその語によって言い表していることも同時に明らかになった。つまり、ムーニエとナンシーを比較することで、後者においては「共同体」や「意味」や「特異性」という名が保持されたまま、その意味だけが別の意味へと変容させられていることが明らかになった。このような同一の語の意味の変容を、ジャック・デリダによって提唱された「古名の戦略」という方法、つまり、ある名が担っている歴史的な意味を、名の形を変えることなく新たな別の意味へと変容させる方法と結びつけることによって、1980年代以降のナンシーの共同体論は、人格主義の歴史的遺産を引き受けつつ、その遺産を別の方向へと転じ、遺産から新たな可能性を引き出そうとする試みとして解釈できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標であった、ムーニエとナンシーの共同体論の比較はおおむね達成できた。具体的には、ムーニエの共同体論とナンシーの共同体論の語彙の共通性と、語の意味の差異を明確にすることができ、またナンシーによる人格主義の語彙の使用を「古名の戦略」という脱構築の枢要な方法論と結びつけて解釈することができた。このため、研究はおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において、ナンシーの共同体論とムーニエの共同体論の共通点と相違点が明らかになったが、今後はムーニエ以外の20世紀のキリスト教哲学の思想家にまで対象を広げて、ナンシーとの比較研究を行う予定である。その際に、「意味(sens)」という概念を中心的な比較軸として研究を進める。
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Research Products
(3 results)