2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J12418
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村上 絢一 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 日本中世史 / 荘園 / 山村 / 山間地域 / 山林資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は一本の論文(A「厳島社領安芸国久嶋郷の刀禰とムラ」大山喬平・三枝暁子編『古代・中世の地域社会‐「ムラの戸籍簿」の可能性』118-153頁)、二本の学会報告(B「中世菅浦の土地利用と山林資源」・C「山城国久多庄の景観復原」)、二本の研究会報告(D「安芸国の郷・村・浦」・E「(中間報告)「饗料・腰差・酒肴請取状」の検討」)を成果とした。 (A)「小田家文書」を分析し、中世に厳島社(厳島神社)の山間所領であった久嶋郷(廿日市市)の村落構造を明らかにした。近世史料や聞き取りを踏まえ、中世の名集落を近世村落への移行過程に位置づけた。(B)「菅浦文書」を分析し、琵琶湖最北端に位置する惣村菅浦(長浜市)の景観と生業の様態を追究した。当初の研究計画では山林資源をめぐる都鄙間の経済交渉を分析の主軸に据えたが、本研究は資源供給地とされた現地の生活史へと視点を移す転機となった。(C)「岡田家文書」をはじめとする中世から近現代に及ぶ家文書群、地籍図、聞き取り調査などを踏まえ、中世京都への山林資源供給地として機能した久多庄(京都市)の村落景観を復原した。これに付随して、筑波大学附属図書館に収蔵される「久多郷検地帳」原本の状態と構成を明らかにした。(D)「厳島文書」ほか広島県下の文書群を分析し、安芸国における「浦」の出現状況とその機能を整理した。本報告は山間部を対象とした(A)と対置される成果で、臨海部とその後背農山村地域との交流を考察した。(E)「小田家文書」「郡司家文書」などに含まれる特異な様式の文書に注目し、各地に残された同一様式の文書との比較を試みた。 以上のほか、「葛川明王院文書」「朽木文書」および天台宗関連文献を精査し、近江国葛川(大津市)を対象とした一本の論文を成稿した。これは現在、学会誌に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は山間地域現地の生活様態に焦点をあてたものを主たる成果とした。村落構造、生業形態、居住様式など明らかにするとともに、史料論的関心を広げることができた。本年度には中央大学を中心とする山国荘調査団へ参加し、8月と11月の調査に同行した。ここでは杣の役割を担った丹波国山国庄(京都市)の景観や史料状況などについて認識を得た。当初の研究計画では、中世の首都京都と地方寺社の一つである安芸国厳島社とが、それぞれの周辺に広がる山間地域と、山林資源を介していかなる経済的交渉を持ったかを課題としたが、本年度は流通や消費の問題について十分な成果を得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度には前年度に扱ったフィールドを横断的に考察することを目標とする。具体的には京都近郊山間地域(葛川・久多庄・山国庄など)、厳島社周辺地域(久嶋郷・山代地域・広島湾内諸島など)の内部において、地域集団(荘・郷・村)や社会集団がいかなる交流を持ったのかを明らかにする。前者については家文書としての史料伝来が顕著であり、かかる地域的特質の解明が課題となる。後者については海辺地域の住民と地域権力との関係について分析を加える予定である。
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