2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18J13210
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
和田 真生 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 歌舞伎 / 世界 / 顔見世 / 太平記 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、江戸歌舞伎が台本を舞台化していく制作の工程を、顔見世における狂言作者の仕事に焦点を当てて明らかにする途上である。これは、田中良『舞台美術』(1944年、西川書店)、伊藤熹朔『舞台装置の研究』(1949年、小山書店)等を中心に「定式」という語がどのように使用されているかを整理するなかで、まずは狂言作者の仕事に着目すべきであると気づいたためである。 これまで筆者は、江戸歌舞伎の顔見世の「世界」について研究を行ってきた。「世界」とは、歌舞伎の用語で作品の背景となる設定をいい、例えば、将門、平家物語、太平記などが挙げられる。江戸の顔見世は、世界定めによってその狂言に仕組む「世界」と主な配役を決めることからはじまる。「世界」が決まると、登場人物とそれに付随するエピソードも規定されることになり、すなわち江戸歌舞伎の顔見世は「世界」という作劇法によって作られているといえる。 「世界」を決め狂言を作ることは歌舞伎製作・興行における発案段階にあたるが、本研究ではその先の制作段階、台本を実際に具象化し舞台に乗せる工程まで扱う。狂言作者、狂言方がどこからどこまでを担当し、誰にどういった言葉、形で指示を出していたか、それが舞台ではどう表現されていたかを、台本(特に舞台書きを含むト書き)、各種附帳、道具帳、絵本番附や錦絵、役者評判記、近代の演劇雑誌の「見たまま」等を手がかりに探る。現時点では狂言作者の職掌について、幕末の狂言作者三升屋二三治の書き遺した『作者年中行事』等の劇書、河竹繁俊『歌舞伎作者の研究』(1940年、東京堂)、守隨憲治『歌舞伎序説』(1943年、改造社)等を参照し、作者が担当した仕事の範囲に関して先行研究の整理を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
江戸歌舞伎が台本を舞台化していく制作の工程を、顔見世における狂言作者の仕事に焦点を当てて明らかにする途上である。「定式」という語がどのように使用されているかを整理するなかで、まずは狂言作者の仕事に着目すべきであると気づいたためである。当初、重点を置く予定であった大道具という側面のみに注目すると順調に進んでいるとは言えないかもしれないが、歌舞伎制作というテーマに沿って研究が進んでいると考えている。 また12月に歌舞伎学会で口頭発表「江戸歌舞伎の顔見世と「太平記」の世界」を行い、2月に同学会誌『歌舞伎 研究と批評』に論文を投稿したことで、「世界」に関する研究を深めることができた。顔見世の世界に関する調査を継続する中で、文化年間後半頃から次第に顔見世狂言の特徴が読み取りにくくなっていく流れが見えてきた。暫の役名を追っていると、三建目に暫が出ないなどいわゆる顔見世狂言の定型的な場面構成を取らないものが増えていくことがわかる。いつの頃までが“江戸歌舞伎らしい江戸歌舞伎”なのかということが、顔見世における世界の使用傾向や、顔見世狂言の構成が崩れてくることからも指摘できる可能性があるとともに、それが狂言の立て方の変化や定式への意識にも関わるであろうという点でも、今後も世界についての調査は継続する必要があると考えている。これは顔見世狂言がどのように発想され、いかにして実際の制作の段階を経て舞台に乗せられたかを筆者が今後検討していく際の基礎となるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は文献研究を続けるとともに作品分析を行う。 文献研究では、田中良以前の定式という語の使用に関する調査、整理を進める。『戯場訓蒙図彙』やその他歌舞伎の作劇について述べた劇書類のなかで大道具がどのように紹介され、定式に関わる事柄がどのように記述されているのかについて調査を行い、定式ということばについて歴史的な側面を整理する。 これと並行して、具体的な作品分析により定式という概念と実践を結びつける。そのための方法として狂言作者の仕事を特に顔見世狂言に注目して整理する。初演時の台本、番付等、現存する近世の道具帳に加えて、現在使用されている歌舞伎座舞台、金井大道具の道具帳の数々も資料として参照することで、大道具における定式という考え方の変遷が明確になるだろう。 作品分析はこれまでも扱ってきた太平記の世界の顔見世狂言から、文化十四年十一月中村座『花雪和合太平記』を扱う予定である。太平記物の顔見世狂言では貴重な現存台本の一つで、いまだ活字化されていない本作を翻刻することによっても歌舞伎研究に貢献することができるだろう。なお、これ以外に比較のため江戸歌舞伎のみに限らず、浄瑠璃及び活歴を含む近代の作品も視野に入れる。
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Research Products
(1 results)