2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J14298
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 一樹 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 平安時代 / 源氏物語 / うつほ物語 / 女房 / 女官 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、『源氏物語』を中心とする平安朝物語の女房の特徴について、検討を行うものである。女房とは、平安時代、貴人に仕え、様々な仕事を担う女性たちのことを指す。本研究では、歴史的実態や、先行文学の発想との関わりから、女房の特徴を分析する。作中女房に注目することで、物語の虚構性や、文学史上の位相を再評価することを目指す。 本年度は、『源氏物語』宮の君の女房出仕や、『うつほ物語』俊蔭女の尚侍就任、『源氏物語』玉鬘の女房集め、朧月夜の尚侍就任について検討した。尚侍(ないしのかみ)は、女官のなかでも最上位の存在を指す。 宮の君の女房出仕については、従来、物語成立期の実態が反映したものと捉えられてきた。一方、本研究では、平安朝物語の女房の描写を調査し、高貴な女君の出仕は、一種の物語展開の類型でもあることを指摘した。宮の君の出仕は、物語成立期の史実と接点を持ちながらも、先行物語の型を踏襲したものであることが明らかになった。 俊蔭女の尚侍就任は、その過程に先行する説話・漢詩文・物語の引用がみられる。先行研究では、とくに王昭君説話の引用について、『源氏物語』の引用方法より劣ったものと捉えられてきた。しかし、本研究では、重層的な引用が、帝の寵愛の重さを具現し、朧月夜が女官でありながら、他后妃に優る存在になることを必然化していることを指摘した。 玉鬘の女房集めについては、歴史的実態や平安朝物語の女房集めとの比較を独自に行った。それにより、女房によって行われている玉鬘の女房集めは、頼りがたい女房を女君の身辺に招き入れ、のちの鬚黒闖入の布石になっていることを明らかにした。 朧月夜の尚侍就任は、物語成立期の尚侍の実態に重なるものと捉えられてきた。しかし、俊蔭女との共通性から、先行物語の尚侍像の型を一面で踏襲したものとも考えられる。朧月夜の尚侍像は、光源氏の須磨流離や、女君の心情変化を導いていることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の研究計画におおむね沿う形で、『源氏物語』や『うつほ物語』の女房や女官について、検討を行うことができた。具体的には、『源氏物語』の宮の君の女房出仕、玉鬘の女房集め、朧月夜の尚侍就任のほか、『うつほ物語』の尚侍就任について、史実や先行文学との関わりから、分析を加えた。 『源氏物語』宮の君の女房出仕や、朧月夜の尚侍就任については、従来物語成立期の実態が反映したものと捉えられてきが、先行物語の型を踏まえたものであることを指摘した。物語は、歴史的実態と一面で接点を持ちながらも、既存の型によりながら、物語展開を実現させているといえる。また、玉鬘の女房集めの検討では、先行物語の型から逸脱した発想が試みられていることを指摘した。平安時代の歴史的実態において、女性の女房集めは、その親が担うものであると考えられる。一方、物語では、男君によって女君の女房が集められる事例がしばしばみられ、一種の物語展開の類型が存在していたと考えられる。それに対し、玉鬘の女房集めでは、光源氏による関与の跡がみられず、女房によって女房が集められている。玉鬘の女房による女房集めは、のちの鬚黒闖入の布石となってゆく。物語は、既存の型から外れることで、女君の人生の転変を導いたといえる。なお、『うつほ物語』俊蔭女の尚侍就任の検討では、物語が先行する説話や漢詩分、物語を重層的に引用させることで、女君の尚侍像を実現させていることを指摘した。 以上のように、今年度の研究では、歴史的実態や先行文学との関係を視野に収めながら、女房の描写に分析を加えることで、『源氏物語』や『うつほ物語』の作品形成の方法や、文学史上の位相の一端を明らかすることができた。当初の研究計画は、おおむね遂行できていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、今後も、平安朝物語の女房の特徴について検討を進める。歴史的実態や、先行文学との発想に目を配りながら、とくに『源氏物語』や『うつほ物語』の女房について考察する。具体的な対象としては、『源氏物語』の朧月夜の女官出仕、桐壺朝まで三代に仕えた典侍、女三宮に仕える女房のほか、『うつほ物語』俊蔭女の輦車の宣旨などを予定している。 『源氏物語』の朧月夜は、尚侍に就任する以前、御匣殿として出仕している。また、光源氏との縁談の可能性が生じながらも、姉弘徽殿大后の意向によって、女官としての出仕が継続させられる。先行研究では、この弘徽殿大后の判断について、解釈が分かれている。本研究では、女官出仕の歴史的実態を調査することで、弘徽殿大后の政治的意図について再検討することを予定している。 『源氏物語』桐壺巻には、桐壺帝の治世に至るまで、三代の天皇に仕えたとされる典侍が登場する。この典侍は、光源氏に藤壺を紹介し、恋のきっかけを作る重要な人物である。しかし、典侍の経歴については、歴史的実態や先行物語の典侍像との関連が調査されていない。典侍の検討を通して、光源氏と藤壺の恋を始発させる物語の方法について再考する。 『源氏物語』女三宮は、若菜上巻にて光源氏と結婚する。これ以後、物語は、光源氏が女三宮の女房を監督しているか否か、という問題を、のちの鈴虫巻に至るまで、追及している。しかし、歴史的実態からすれば、妻の女房の世話を担うのは、妻方の親であるはずである。先行物語の女房の描写なども視野に入れながら、歴史的な慣習からは逸脱した描写の意義を考察する。 『うつほ物語』俊蔭女は、尚侍就任後、楼の上巻にて秘琴の伝授を完遂するが、その際、弾琴の功によって、輦車の宣旨が下されている。この場面に関して、歴史的実態との関係が問題になる。後代の物語に、輦車の宣旨が下される尚侍が存在することとの関連も検討したい。
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Research Products
(4 results)