2018 Fiscal Year Annual Research Report
A Research on the Construction of Disaster-Resistant Residential Environment in South Pacific islands
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18J14596
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宮地 茉莉 京都大学, 地球環境学舎, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 自然災害 / 災害復興 / 住居再建 / 伝統住居 / 住居再建事業 / フィジー共和国 / バヌアツ共和国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は自然災害と居住環境をテーマに、南太平洋島嶼国において気候変動により規模が拡大しつつあるサイクロン災害に対し、地域固有の建築文化を活用した持続可能な居住環境構築の可能性を、フィールド調査をもとに考察することを目的とする。対象国は2015年及び2016年に大規模サイクロンの被害を受けたバヌアツ共和国及びフィジー共和国であり、サイクロン祭儀後の早期復興に向けた在来建築の利用可能性に着目し、①文化的要素(伝統建築継承)と②機能的要素(耐災害性確保)の2点を評価軸にフィールド調査を実施した。 2018年度までに実施した調査では、バヌアツの対象集落において、在来住居「ニマラタン」が被災時に避難所として活用され、その経験から集落住民がニマラタンを自力再建されたことを確認した。一方で、フィジーの対象集落では、政府主導による近代住居の再建事業が進んでおり、被災から3年経過した2019年3月時点においても在来住居「ブレ」の再建が後回しにされていることが明らかになった。住民によると、支援を受けた近代住居の再建は2019年3月までに完了する予定であり、同年4月からブレを集落の共同労働で再建するとのことであり、引き続き再建過程を追っていく必要があると考える。政府主導による近代住居の再建が優先された要因としては、2016年の大規模サイクロンによる住居被害が甚大だったこと、政府の再建支援が工業製品購入用の電子カードの支給だったこと、在来資源を用いる在来住居より工業製品による近代住居の再建の方がかかる時間が短いこと等が挙げられる。この事業では、住居再建は住民に委ねられたため、住居の耐災害性までが保障されるものではなかったことが課題となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究実施計画は、バヌアツ共和国及びフィジー共和国の対象村落における①サイクロン被害調査の実施、②コミュニティベースの復興過程調査の実施だったが、2018年5月にバヌアツにて、2018年9月及び2019年3月にフィジーにてフィールド調査を実施し、①及び②の調査を実施することができた。 当初はフィジーにおける在来住居ブレの再建過程を記録する予定だったが、政府の再建事業により工業製品を用いた近代住居の再建が優先され、在来住居ブレの再建が後回しにされたことにより、在来住居ブレの再建過程の記録はまだ実施できない状況である。しかしながら、在来住居再建に政府の近代住居再建事業がどのような影響を与えたのかという視点に切り替え、2018年度は政府の再建事業の実施状況と対象集落における近代住居の再建過程に焦点を当て、政府の担当機関への聞き取りや対象集落において悉皆調査を行い再建実施状況を把握する等、研究趣旨から大きく逸脱することなく、柔軟に対応できたと考える。 また、対象集落の村長への聞き取りから、2019年4月から8月にかけて在来住居ブレの再建が行われる予定であるため、引き続きフィールド調査を行い、当初の予定通り在来住居ブレの再建過程の記録を実施し、再建マニュアルを予定通り作成することは可能と思われるため、おおむね順調に研究は進んでいると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度までに実施したフィールド調査において、フィジー共和国の対象集落にて近代住居の再建が優先され、在来住居ブレの再建が後回しになっていたこと、2019年3月までに近代住居の再建は完了し、同年4月より在来住居ブレの再建が開始することが明らかになった。引き続き住居再建支援による近代住居再建の過程を記録し、在来住居ブレの残る集落に与えた影響を考察するため、被災前・被災後・再建過程・再建後の住居配置と住居形態をまとめ、住居再建支援の成果と課題を政府にフィードバックを行う予定である。また、当初の目的であった在来住居の再建過程を詳細に記録し、再建に関する課題をまとめる。 さらに、住居環境についても着目し、フィールド調査にて参与観察を実施し、熱帯地域における近代住居と在来住居ブレの室内の快適性についても課題をまとめた上で、在来住居の災害復興・住居再建スキームへの導入・利用可能性を考察する。 以上より、在来住居の再建過程の記録をもとに、コミュニティベースの復興活動を他の離島や遠隔地に置いても活用できるようマニュアル化し、ハンドブックとしてまとめ、対象集落及び政府に対してフィードバックを行う。このマニュアルには、在来住居だけでなく、再建された近代住居の課題もまとめ、より幅広い農村集落への導入を目指す。
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