2018 Fiscal Year Annual Research Report
薬剤性肝障害の進展機序の解明;特に,起炎因子が免疫細胞の発現と機能に与える影響
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18J14823
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
倉持 瑞樹 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 肝細胞傷害 / HMGB1 / 炎症性シグナル / Toll様受容体 / 自然免疫 / ラット |
Outline of Annual Research Achievements |
炎症の起点として,傷害・壊死細胞から放出されるDamage-Associated Molecular Patterns(DAMPs)の関与が注目されている.代表的なものにHigh mobility group boxes(HMGBs)があり,HMGB1はToll-like receptor 4(TLR4)や糖終末代謝物受容体(RAGE)を受容体とするとの報告がある.しかし,HMGB1の起炎因子としての役割については不明な点が多い.本研究では,薬剤誘発性肝細胞傷害におけるHMGB1と,炎症細胞の特徴について解析を行う.肝細胞傷害を起こす薬剤としてチオアセトアミドを選択し,チオアセトアミド単独投与群と,チオアセトアミド投与後にHMGB1中和抗体を投与した群の肝組織を用いて,病理組織学的評価,リアルタイムPCR法による炎症性サイトカインの解析を行った. 病理組織学的に,チオアセトアミド投与後24時間で軽度の肝細胞壊死と炎症細胞浸潤がみられ,その程度は両群で顕著な差は認められなかった.しかし,肝逸脱酵素値はHMGB1中和群で有意に低値を示した.リアルタイムPCR法によるサイトカインの発現解析では,炎症性サイトカイン(IL-6)とマクロファージ遊走因子(MCP-1)がHMGB1中和群で有意に低かった.以上から,マクロファージに対する免疫組織化学染色を実施し,病変部における陽性細胞数をカウントすると,HMGB1中和群で有意に少なかった. 受容体とされるTLR4, RAGE,これら受容体のカスケード分子(p38,JNK/SPAK, p44/42とそれぞれのリン酸化物)および核内転写因子(NF-κB)をウエスタンブロット法で発現を解析したが,両群間で有意な差は認められなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
TLR4,RAGEならびにそのカスケード分子の活性について,代表的な分子であるTRAM1やMyD88についてウェスタンブロット法で解析したが顕著な差が認められなかったため,そのほかのカスケード分子であるp38,JNK/SPAK, p44/42とそれぞれのリン酸化物を標的として解析を進めた.しかし,これらの分子についてもHMGB1中和による活性化の低下が認められなかったことから,TLR4やRAGEに代わるサイトカイン遺伝子発現経路の検討が必要であることが明らかになった.また,多くの受容体カスケードは最終的にNF-κBやactivating protein-1(AP-1)を介して遺伝子の転写調節を行うことから,これら転写調節因子をウエスタンブロット法ならびに免疫組織化学染色によって活性化と局在を確認するため,抗体および染色条件の検討を行った.その結果,NF-κBについて,免疫組織化学染色で有用な条件を決定した. HMGB1は正常では核内蛋白として存在しており,細胞が傷害を受けることで核外,さらには細胞外に漏出して受容体に結合する.漏出の観察の確認のためにHMGB1に対する免疫組織化学染色を検討した.HMGB1に対する免疫組織化学染色についても,抗体ならびにサンプル状態,反応性を加味した条件検討を行い,チオアセトアミドによって傷害を受けた肝細胞において,核外漏出であろう陽性像を確認した.しかし,非特異的な染色が見受けられたため,特異性を担保する検討が必要である.浸潤細胞について,マクロファージのM1/M2タイプを鑑別するために抗CD68抗体または抗CD163抗体を用いた免疫組織化学染色を行い,病変部における細胞数をカウントしている.
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Strategy for Future Research Activity |
HMGB1の受容体の候補としてTLR4やRAGEのほかにTLR9,Nod様受容体(NLR),C-X-Cモチーフケモカイン受容体(CXCR)が挙げられていることから,これらの受容体の発現と活性についてウエスタンブロット法を用いて解析する.さらに,NF-κBやAP-1については免疫組織化学染色で核内の局在を観察し,実験群間で比較することで,遺伝子の転写活性に差があるかを確認する. また,DAMPsはオートファジーによって細胞内に取り込まれ,NLR3などの細胞質内受容体を活性化することが示唆されている.オートファジーについて,オートファゴソーム形成のマーカーであるLC3B蛋白に対して免疫組織化学染色からオートファジー活性を比較する. また,本研究で用いたチオアセトアミドの投与量は,以前申請者が用いていたチオアセトアミドの用量より少ない.以前の用量では傷害後に浸潤する炎症細胞はマクロファージを主体とした単核球が目立ったが,本研究においては単核球に加えて好中球が目立った.このことから,炎症の初期にマクロファージだけでなく好中球も寄与している可能性を考え,好中球遊走因子の発現解析と免疫組織化学染色により,好中球の動態を解析する.さらに,本研究で検討しているタイムポイントが投与後24時間であり,すでに炎症細胞浸潤が認められていることから,より初期の段階におけるシグナルの活性を検討するため,24時間以内で複数のタイムポイントにおいて採材し,解析する. 肝臓におけるHMGB1の免疫組織化学染色から,肝細胞のみでなく胆管上皮細胞の核内にも強い陽性像が認められたことから,胆管上皮を傷害する薬剤に起因する薬剤性肝障害での炎症誘起にもHMGB1が寄与している可能性が考えられたため,ジブチルすず化合物などの胆管上皮を標的とする化学物質を用いた胆管傷害ラットモデルを作製し,同様に解析する.
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Research Products
(3 results)