Outline of Annual Research Achievements |
2016年小林俊行とFanny Kasselは不定値計量を持つ局所対称空間Γ\G/Hにおける大域解析の理論の枠組みを与え,さらにある条件下で可算無限個の``安定離散スペクトラム''の存在を見出した.その過程で,彼らは対称空間G/Hの``擬球''B(R)(Rは``半径'')を定義し,ある正の数a,Aが存在して,各Γ軌道Γx(xはG/Hの元)のB(R)における数え上げN_{Γ}(x,R)=#(Γx∩B(R))について,N_{Γ}(x,R)≦Ae^{aR}(条件★)が成立するなら,Γ\G/Hの可算無限個の離散スペクトラムを構成できることを示した. 本年度の研究では,対称空間として3次元反ド・ジッター空間AdS^3を取り上げ, その不連続群Γに対して,Γ軌道の数え上げが条件★を満たすかを考察することで, Γ\AdS^3の離散スペクトラムを構成しようと試みた.そこで,具体例を得るために,GueritaudとKasselによるAdS^3のある無限生成の不連続群の構成(2017)を,本研究では一般化した.さらに得られた不連続群の軌道の数え上げを評価し,次の結果を得た. ・小林(1998)による簡約群の擬リーマン等質空間の不連続群の変形理論に由来して,小林とKassel(2016)は不連続群の強不連続性の概念を定義し,強不連続ならば条件★を満たす事を示したが,この逆の不成立を示す例を構成した.特に強不連続ではない不連続群ΓについてもΓ\AdS^3に離散スペクトラムが無限個存在し得ることが分かる. ・滑らか,下に凸,さらに狭義単調増加な実数全体で定義された実数値関数f(例えばe^R, e^{e^R}...)に対して,あるAdS^3の不連続群Γ_{f}が存在して,N_{Γ_f}(E, R)>>f(R). ここでEはAdS^3のある元である.特にすべての不連続群が条件★を満たすわけではない事が分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
"強い"不連続性を有する不連続群の軌道の数え上げが軌道に依らず同じ指数関数で抑えられる事が小林-Kasselにより示されたが,不連続群の”強さ”の仮定を外すことが不連続群の軌道の数え上げにどのように影響するかを調べることが本年度の目的であった.研究実績の概要に記述したように,この目的は完全に達成され,数え上げが指数関数よりもはるかに大きい増大度をもつ不連続群がある事や,一方では強い不連続性を有さない不連続群で数え上げが(強い不連続性を有する場合と同様)軌道に依らず同じ指数関数で抑えられるものがある事が分かった.以上が本研究員が進捗状況の区分として上述のものを選択した理由である.
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Strategy for Future Research Activity |
非リーマンでもよい局所対称空間上の大域解析に関する小林俊行とFanny Kasselによる理論を動機として,ΓのXにおける軌道の分布を定量的に評価する.具体的には以下の事を考察する. Xにはその対称空間としての構造から,(自然に距離を持たないにもかかわらず)「半径」Rの「擬球」B(R)を定義することが出来る.そこで与えら れたΓ軌道Οに対して「数え上げ」N(Ο,R)=#(Ο∩B(R))を(主に上から)評価する.リーマンの場合にはMargulis,Miatello-Wallachにより,Γが 余コンパクト(さらには余体積有限)に作用する場合にはΓの各軌道Οについて「数え上げ」N(Ο,R)はRに関して漸近的には(B(R)の体積)/(Γ\ Xの体積)になる事が知られている.そこで,リーマンの仮定を外すことでこういった結果にどのように影響するかを観察する.このために,まずは 非リーマンの対称空間で余コンパクトに作用する不連続群を十分に持つ物の内,最も低次元の3次元反ド・ジッター空間を例にとり,この空間の 余コンパクトな不連続群の軌道の「数え上げ」の「半径」に関する漸近挙動を計算する.
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