2018 Fiscal Year Annual Research Report
NHKの総合福祉番組におけるオルタナティヴな公共性規範に関する考察
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18J20652
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 瑛 東京大学, 大学院学際情報学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ジャーナリズム / マスメディア / 公共性 / 声なき声 / ソーシャルメディア / 言説分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、多種多様な主観的経験を含む「声なき声」を社会全体の問題提起に結び付けるという観点から放送の公共的役割を再考し、それがどのような構造的葛藤に直面するのかを、NHKの福祉番組『ハートネットTV』を事例とした経験的研究から明らかにすることである。今年度は、相模原障害者施設殺傷事件をめぐるシリーズ企画や同番組が展開する自殺防止キャンペーン「生きるためのテレビ」における番組表象やソーシャルメディア上の意見を分析し、2つの点を明らかにした。 第一に、同番組が「生きづらさ」という象徴的な表現を用いることで、障害、ジェンダー、性的指向などの多様なアイデンティティを同じ言説空間に包摂しようと試みていることを、言説分析を通じて明らかにした。この表現が、散逸している個々人の主観的経験の過程を外在化して共有するという試みと親和性が高いことも示した。それは自己表現の手段を剥奪された状況のある人々が自らの声を取り戻す過程を構成しうることを示唆している。 第二に、当事者の声に寄り添い伝えるという同番組の目的と照らし合わせて、ソーシャルメディア上の「声」を取り入れる再帰的な番組制作実践における構造的問題を、番組表象とソーシャルメディア上の批判的な反応を分析することで示した。ここでは、当事者性が曖昧な状況において、表出する様々な意見を当事者間での合意形成に結び付ける回路をいかに機能させるのかが問われており、従来のマス・コミュニケーションにおける専門家/視聴者の関係性を再考して考察を深める必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以上の成果は、2018年6月にIAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)、11月に日本マス・コミュニケーション学会で口頭発表を実施し、1本の投稿論文として発表することができる状態である。1月には学会誌『マス・コミュニケーション研究』に論文として投稿しており、現在査読結果を待っている。
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Strategy for Future Research Activity |
文献読解を通じて来年度の課題も明確にした。英米圏では雑種混交を繰り返しながら公的事項/私的事項や事実/虚構を曖昧化する現象として「インフォテインメント」や「リアリティTV」の研究が既に進められており、同番組についても、伝統的なドキュメンタリーにおける表象やメッセージの妥当性の枠組みから分析を進めるだけでなく、視聴者が何をリアリティのあるものとして受容しているのかという点を明らかにする必要がある。 また、2019年度には制作部署であるNHK制作局文化・福祉番組部が統廃合により別部署に編入し、本放送の時間も週5日から週4日に縮小されるため、組織的状況の変動も考慮に入れながら持続可能性について検討を行う必要がある。
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Research Products
(2 results)