2019 Fiscal Year Annual Research Report
NHKの総合福祉番組におけるオルタナティヴな公共性規範に関する考察
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18J20652
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 瑛 東京大学, 学際情報学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ジャーナリズム / マスメディア / 公共性 / 声なき声 / ソーシャルメディア / 言説分析 / ドキュメンタリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、多種多様な主観的経験を含む「声なき声」を社会全体の問題提起に結び付けるという観点から放送の公共的役割を再考し、それがどのような構造的葛藤に直面するのかを、NHKの福祉番組『ハートネットTV』などを事例とした経験的研究から明らかにすることである。今年度は、前年度に実施した分析の結果を学術論文として取りまとめた。これは、オンライン空間を通じて可視化される「声なき声」を表象しようと試みるジャーナリズム実践が、テレビ・ドキュメンタリーが志向する「メッセージの伝播」と矛盾することを経験的に示したものである。また、林香里らと共に実施したインタビュー調査の分析を行い、本研究が「声なき声」として定義するものの所在を示した。 また、これらの実証的内容を、現代のポピュリズム社会における「声なき声」とリアリティの関係性、メディアの相互作用と異種交配を活用した視聴者参加の拡大、報道/娯楽の融解といった、広い学術的文脈の中で再定義する作業を行い、ブックチャプターとして取りまとめた。『ハートネットTV』だけではなく、米国のリアリティ番組『クィア・アイ』など、他の社会問題当事者のメディア表象実践との比較を通じて、公共サービス放送やドキュメンタリーが標榜してきた伝統的ジャーナリズムの公共性理解における問題も整理した。これらから明らかにされるのは、「送り手」と「受け手」の関係性を相互扶助を通じた連帯の政治の観点から再考する視座の導入が求められるということであり、既存のジャーナリズム研究の抜本的な再考をもたらすものである。 以上を踏まえて、博士学位申請論文「ポスト放送時代のジャーナリズムにおける「声なき声」の包摂とその葛藤」の執筆に向けて準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
以上の研究成果を踏まえて、1本の学会誌論文、2本のブックチャプター(共著を含む)、2件の口頭発表を行った。その過程で、当初の申請で事例として挙げた『ハートネットTV』に留まらず、多種多様なメディアの異種混淆がジャーナリズムにどう作用するのかという新たな着眼点を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの事例研究と文献読解を整理し、テレビとソーシャルメディア、送り手と受け手、情報と娯楽などの相互作用がジャーナリズム規範に与える影響について考察を深めていく。
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Research Products
(5 results)
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[Book] 尊厳と社会2020
Author(s)
加藤泰史、小島毅ほか
Total Pages
456
Publisher
法政大学出版局
ISBN
9784588151088