2019 Fiscal Year Annual Research Report
細胞がん化と関連するヒストンバリアントH2A.Zの染色体分配における機能解明
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18J21426
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高橋 大輔 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | エピジェネティクス / クロマチン / ヒストンバリアント / H2A.Z |
Outline of Annual Research Achievements |
真核生物のゲノムDNAはクロマチン構造を形成することで折りたたまれ核内に収納される。遺伝子発現制御などのゲノム機能制御に伴ってクロマチンは構造変換を受けることが知られており、これまで様々なクロマチン構造変換因子についての研究が行われてきた。その1つであるヒストンバリアントはヒストンタンパク質と交換されることでクロマチン中に取り込まれ、幅広いエピジェネティック制御に寄与することが報告されている。中でもヒストンH2AのバリアントであるH2A.Zは進化的に高度に保存されたクロマチン構造変換因子であり、遺伝子発現・染色体分配・DNA損傷修復など様々なゲノム機能制御に関わっていることが明かとなっている。しかし、これらの詳細な分子機構には未だ明かとなっていない部分が多い。 H2A.Zは疾患との関係についても注目されており、中でも細胞がん化に影響する分子として注目を集めている。一部のがん細胞でH2A.Zが過剰発現となっていることや、特定の変異が蓄積しているためである。このためH2A.Zによるエピジェネティック制御の分子機構を明らかにすることで、がんなどの疾患に対する新たな治療及び予防的アプローチを見出すことも期待できる。そこで本研究では、H2A.Zがどのように特定のゲノム領域に導入されているのか、という点に着目した。H2A.Zは染色体分配に関わるセントロメア領域や遺伝子発現制御に関わるプロモーター領域などのゲノム領域にのみ局在している。しかし、どのような分子機構によってH2A.Zがそれらの領域に導入されているのかは明かとなっていない。これはH2A.Z機能の根本的な部分であるため、解明が必要とされる重要な課題である。本研究では、出芽酵母を用いてH2A.Zがどのようなゲノム上のマーク(エピジェネティックマーク)を指標として導入されているのか解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
H2A.Zの導入のために必要とされるエピジェネティックマークについて見通しが立ったため、当初の計画以上に進展していると評価した。本研究では出芽酵母を用いてH2A.Z導入のためのエピジェネティックマークの解析を行った。様々な様式でH2A.Zを発現する出芽酵母株を取得し、これらのH2A.Z局在を比較することで、H2A.Z導入のためにH2A.Zそのものがエピジェネティックマークとしてはたらいているというモデルを立てることができた。具体的には、内在性H2A.Zを欠損させてから外来的にH2A.Zを発現させた株と、外来的にH2A.Zを発現させてから内在性H2A.Zを欠損させた株の比較を行った。これらの株は遺伝子型が全く同じであるにも関わらず、前者の株では外来性H2A.Zの特定ゲノム領域への局在が消失しており、後者の株ではそれが維持されていた。このため一度H2A.Zがゲノム上から完全に除去されることで、新しいH2A.Zを導入するためのエピジェネティックマークが消失したと考えられる。これらの結果からH2A.Z導入のためにH2A.Zそのものがエピジェネティックマークとしてはたらいているということが予想される。また内在性H2A.Zを欠損させてから外来的にH2A.Zを発現させた株でも、H2A.ZのDNA損傷修復機能は維持されていることが明らかとなった。これはH2A.ZによるDNA損傷の分子機構を明らかにする上でも大きな知見であり、そういった機能的な面にまで拡大した解析を行うことができた点も大きな進展といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
出芽酵母を用いてH2A.Zによるエピジェネティック制御の分子機構について、より詳細な解析を行っていくことを予定している。特にH2A.Zによる染色体分配制御機構に注目している。染色体分配の不安定化は細胞がん化の原因となることが報告されており、がん細胞に見られる普遍的な表現型である。このため、H2A.Zと細胞がん化の関係を明らかにするためには染色体分配制御のための分子機構を解析する必要があると考えている。H2A.Zが染色体分配に重要な機能を果たしているセントロメア領域というゲノム領域に局在している。内在性H2A.Zを欠損させてから外来的にH2A.Zを発現させた株と、外来的にH2A.Zを発現させてから内在性H2A.Zを欠損させた株におけるセントロメア領域のH2A.Z導入量の比較や染色体分配不安定化試薬への感受性解析から、H2A.Zがどのような分子機構で染色体分配へ寄与しているかを明らかにしていきたい。 また、H2A.Zと他のエピジェネティック制御因子の相互作用についても解析を行っていく。H2A.Zによる様々なエピジェネティック制御はH2A.Z単一で完結しているものではなく、ヒストン修飾をはじめとするクロマチン構造変換因子とのインタラクションによって行われると予想される。そこでH2A.Zとの関連が予想されるいくつかのヒストン修飾に注目し、それらを欠損させた酵母株を取得する。それらの酵母株におけるH2A.Z機能や局在を解析していくことで、H2A.Zとヒストン修飾の相互作用を明らかにしていきたい。
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Research Products
(2 results)