2018 Fiscal Year Annual Research Report
女性の就業に関する意思決定構造―法的制度・職場規範・夫婦間の役割調整に着目して―
Project/Area Number |
18J21478
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 茜 東京大学, 学際情報学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 女性就業 / 夫婦ペア調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,法的制度(マクロ)と,職場と個人の関連(メゾ)および,夫婦間の役割調整(ミクロ)を考慮した上で,女性の就業継続の意思決定のメカニズムを解明することである.既存研究では,女性本人の属性や職場環境に着目して女性の就業選択の要因を検討してきたが,本研究では男性側の要因にも焦点を当てる.そこで必要となるのが夫婦それぞれの職場における制度や規範が,互いの意識形成に及ぼす影響の把握である. 以上のことを明らかにするために2018年度は,夫婦ペア調査第1回目を実施した.女性の就業選択が女性本人の状況のみならず,配偶者をはじめとする周囲の状況に影響を受けていることを明らかにすることが目的である.研究の趣旨に同意し,夫婦ともに正社員(産休・育児休業取得中を含む)として就業しており,未就学児以下の末子を持つ(妊娠中を含む)夫婦を調査対象者とした.暫定的な分析からは,夫の職場において両立支援制度が整備されているほど,その妻の自分自身のキャリア意識が高いことが明らかとなった. また他のデータを用いた分析をもとに執筆した論文からは,1990年以降,結婚時における女性の就業選択に対する夫の影響はなくなったものの,育児期における男性の働き方に対する態度は依然として変化していないことが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は,女性の就業選択が女性本人の状況のみならず,配偶者をはじめとする周囲の状況に影響を受けていることを明らかにすることを目的に,夫婦を対象としたWeb調査を行なった.Web調査会社のモニターを対象に,本人の就業状況・子どもの有無・配偶者の就業状況をもとにスクリーニングを行なったのちに本調査を実施した.夫婦間での認識や態度の違いを把握できるような調査設計にしている.具体的な質問項目は,(1)仕事に関すること(2)家族に関すること(3)家庭生活について(4)意識・態度についてである. 他のデータを利用して2本の論文を執筆した.子どもが未就学児以下というライフステージにおいて,男性が自身の働き方を調整する可能性がどこにあるかという問いに対して研究を行なった.国立女性教育会館が実施している新入社員を対象にしたパネルデータを用いて分析をしたところ,稼得責任を持っている場合・管理職志向を持っている場合には,育児期においても働き方を調整することは望んでいないことが明らかになった.その結果をもとに同研究所の紀要に投稿した.もう1本は,既婚女性の結婚離職に対して配偶者の従業先規模が及ぼす影響について検討した.1960年から2015年の約60年間の中でその影響の大きさを比較したところ,1990年代を境にしてその影響が消失していることが明らかになった.得られた知見をもとに,東北社会学年報に投稿し,掲載決定の状況である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、夫婦ペアパネル調査を実施する.前年度に第1回調査を実施しており,本年度は追跡調査を実施する.具体的な計画としては以下の通りである.調査対象者は前年度調査に回答した夫婦200組(400人)である.対象者の属性は,末子が未就学児(妊娠中を含む)であり,夫婦ともに正規雇用者(育休・産休取得中も含む)である.事前に調査の趣旨を説明し,夫婦での回答および,翌年以降に追跡調査がある事に承諾した場合にのみ調査票を配布した.質問票は第1回調査に用いたものとほぼ同じものを用いる.同様の調査票を用いる理由としては,同一の質問項目の回答を比較することによって個人の状況や態度の変化を捉えることができるからである.調査票の項目としては,職場の雰囲気・仕事と家庭の両立に関する各制度の有無や利用しやすさ・子どもの世話・働くことに対する態度・配偶者に対する意見・生活時間等を尋ねている.本年度は既存の項目に加えて,1年間で職場の異動があったかどうかや退職したかどうかについて質問項目を準備する. また第1回目のデータ分析を進める.主に夫婦それぞれの意識形成と互いの職場制度や規範との間に関連があることを検討する。また調査対象者が正規雇用の共働き夫婦であることに着目し,正社員という同じ立場である夫婦が,未就学児を持つ期間においてはその関係がどのように変化しているのか,また互いにどのように捉えているのかについて検討する.手がかりとして夫婦の権力関係研究をレビューし,そこから得られた知見と,データから得られた夫婦の権力構造の知見を比較する.この結果を取りまとめ,学会報告を行う.
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Research Products
(3 results)