2019 Fiscal Year Annual Research Report
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18J21556
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
榎本 悠久 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ジョルダン・ヘルダー性 / 完全圏 / ねじれ自由類 / 単純対象 / 前射影的多元環 / 道多元環 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、与えられた完全圏がジョルダン・ヘルダー型の定理(組成因子の一意性)を満たすかの判定法や、実際の具体的な完全圏に対してその決定を行った。まず完全圏のGrothendieckモノイドと呼ばれる不変量を導入し、これが可換自由モノイドであることとジョルダン・ヘルダー性(以下JH性とする)を満たすことが同値であることを示した。さらに表現論的に重要な多くのクラスの完全圏に対しては、これが「直既約射影対象の個数が単純対象の個数と等しい(*)」ことで特徴づけられる、という数値的な特徴づけを与えることに成功した。 次に、これを表現論へ適応するため、多元環の表現論で近年盛んに研究されている「ねじれ自由類」という加群圏の部分圏についてJH性を考察した。とくに(*)を調べるため、与えられたねじれ自由類の単純対象を決定するという課題に着手した。単純対象は「他の二つの非自明な拡大として書けない」という非常に基礎的で重要な対象であるにも関わらず、これに関する先行研究はほぼなく、その手法を模索しながら行った。 具体的には、まず中山多元環という基本的な環のクラスについては、ねじれ自由類の単純対象が比較的容易に分類でき、また(*)と組み合わせて、全ての中山多元環上のねじれ自由類はJH性を満たすことが分かった。 次に、Dynkin箙からできる道多元環や前射影的多元環のねじれ自由類について単純対象の決定を行った。先行研究により、ねじれ自由類は必ず対応するルート系のWeyl群の元wを用いてF(w)として記述できる。そこで研究員はF(w)がある意味でwの転倒集合(wの逆元で送って負ルートになる正ルート)の圏化を与えていることに着目し、F(w)の単純対象がBruhat転倒という「転倒集合内での単純ルート類似」と全単射なことを示し、JH性のルート系的特徴づけを与えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
完全圏のJH性についての十分な基礎理論を構築することに成功し、またそれを用いて中山多元環、道多元環や前射影的多元環など、非常に重要で基本的なクラスの環上のねじれ自由類について、純組合せ論的なJH性の判定法や単純対象の分類を行うことができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
ねじれ自由類の単純対象は煉瓦(brick)という自己準同型環が可除環になるという性質を持ち、さらに単純対象すべての集合は、「煉瓦の集合であり、その間の射がゼロ射か単射しかない(**)」という特徴的な条件を満たすことが観察されている。一方で、「煉瓦の集合であり、その間の射がゼロ射しかない」ものは半煉瓦と呼ばれ、重要な研究対象であり、これは加群圏の広大(wide)部分圏(=拡大で閉じた完全アーベル部分圏)と一対一に対応することが知られている。そこで、この広大部分圏と半煉瓦との対応を拡張する形で、ねじれ自由類も含めた広いクラスの部分圏が(**)を満たす煉瓦の集合と対応しているのではないかと予想している。これについて詳しく調べ、さらにそこで登場することが予想される新たな部分圏に対して、具体的な多元環上で詳しい分類や、単純対象などの不変量計算を試みる。
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