2018 Fiscal Year Annual Research Report
脳腫瘍抑制因子L(3)mbtによるpiRNA因子転写制御機構の解明
Project/Area Number |
18J21997
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 瞳 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 非コードRNA / piRNA / PIWI / 生殖細胞 / 転写因子 / 遺伝子発現制御 / 腫瘍 |
Outline of Annual Research Achievements |
機能性小分子RNAであるPIWI-interacting RNA (piRNA) は、生殖組織特異的に発現し、トランスポゾンの発現抑制によりゲノムの品質管理を行う。piRNA経路はヒト含む幅広い種で保存され、piRNA経路の異常は卵形成不全による不妊の原因となるため、piRNA経路の詳細な解明は重要課題である。piRNA経路に必須なPIWIタンパク質を始めとするpiRNA経路因子は生殖細胞特異的に発現するが、体細胞においてはL(3)mbtという脳腫瘍抑制因子により転写抑制されている。更にL(3)mbt欠失による異所的なPIWIタンパク質の発現は腫瘍化に寄与するという知見がある。そこで本研究は、生殖系体細胞の培養細胞株において、作製したL(3)mbt抗体とゲノムワイドな配列解析を用いて、L(3)mbtによるpiRNA経路因子の転写抑制機構を分子レベルで詳細に解明することを目的とした。 まず、L(3)mbt抗体によりクロマチン免疫沈降したDNAの配列解析を行って、ゲノム上のL(3)mbt結合領域を同定した。その結果、L(3)mbtはvasaのプロモーター領域に結合しており直接的に制御していることが示された。しかし、L(3)mbtは抑制時に発現変動するaub、ago3のプロモーター領域には結合せず、間接的に制御していることが示唆された。L(3)mbtの結合領域に特異的なコンセンサス配列は同定されなかった。 次に、L(3)mbt抗体を用いて免疫沈降したサンプルを質量分析し、L(3)mbtに特異的に結合する新規相互作用因子を同定した。この因子Xを抑制すると、L(3)mbtと同様に生殖組織特異的なpiRNA因子群が発現上昇したため、転写抑制に寄与していると示された。現在はこの因子Xに対する抗体を作製中であり、生化学的解析を通じてL(3)mbtと因子Xによる転写制御について明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生殖系体細胞においてL(3)mbt抗体によりクロマチン免疫沈降を行い、L(3)mbtの結合DNAからChIP-seqライブラリを作製した。次世代シーケンサーによりライブラリの配列情報を得て、バイオインフォマティクス解析を行ってL(3)mbtの結合領域が明らかになった。この結果と、L(3)mbt抑制条件下の生殖系体細胞を用いたRNA-seqの結果を比較解析したところ、生殖系体細胞において発現抑制されており生殖細胞特異的に発現するpiRNA経路因子、vasaのプロモーター領域においてL(3)mbtが結合していることが明らかとなった。よって、L(3)mbtはvasaのプロモーター領域に直接結合することにより転写を抑制していると示唆された。生殖系体細胞において発現抑制されており生殖細胞特異的に発現するpiRNA経路因子、aub、ago3に関しては結合が確認されず、L(3)mbtは間接的にaubやago3の転写を制御していると考えられる。また、生殖系体細胞を含む生殖組織特異的に発現するpiRNA経路因子であるPiwi、Yb等についてもプロモーター領域にL(3)mbtが結合していた。L(3)mbtを欠損した脳腫瘍組織においてPiwiやYbは異所的に発現上昇するため、生殖系体細胞においてPiwi、YbにはL(3)mbtより上位の転写機構が働いていると予測される。 次に、L(3)mbtの新規相互作用因子の探索を行った。L(3)mbt抗体を用いて免疫沈降により生殖系体細胞における相互作用因子を採取し、質量分析により相互作用因子を同定した。その結果、発現を抑制することでL(3)mbtと同等のpiRNA経路因子の発現変動が起こる新規相互作用因子Xを発見した。この因子とL(3)mbtのpiRNA経路因子の転写制御への寄与と分子機構を解析する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、生化学的解析を行うために因子Xに対するマウスモノクローナル抗体を作製する。現在はマウスに大腸菌から精製した抗原を注射しており、採取した血清から特異的な抗体能が確認され次第、免疫細胞を採取してミエローマと細胞融合させ、ハイブリドーマを作製する。次に抗体能によるセレクションを行い、モノクローナル抗体を得る。抗体能を評価する項目はELISA、ウエスタンブロッティング、免疫沈降、クロマチン免疫沈降(ChIP)である。 次に、作製した因子Xに対する抗体を用いて複合体解析を行う。因子Xに対する抗体により免疫沈降を行い、因子Xが既知のL(3)mbt複合体であるLINT複合体に含まれるか、それとも新規のL(3)mbt複合体を構成するか解析する。更に、免疫沈降サンプルを質量分析し、因子XとL(3)mbtが構成する複合体因子を決定する。 更に、因子Xの抗体を用いてChIPを行い、採取したDNAからChIP-seqライブラリを作製する。配列解析を行い、L(3)mbtに結合している因子Xのゲノムワイドな局在解析を行う。この結果を前年度に解析したL(3)mbtのゲノム上局在と比較し、遺伝子の発現変動への寄与を考察する。 並行して、因子Xの抑制条件下で発現変動する遺伝子群を解析する。L(3)mbt、既知のL(3)mbt複合体因子Lint-1、因子Xの発現をそれぞれ抑制した細胞と抑制無しの細胞のtotal RNAを抽出し、RNA-seqライブラリを作製して配列解析を行う。発現変動遺伝子群をサンプル毎に比較し、各因子の遺伝子発現変動への寄与を解析する。また、ChIP-seqにより得られたL(3)mbt、因子Xのゲノム上局在と発現変動遺伝子群の分布とを比較する。両因子が発現変動遺伝子のプロモーター領域に直接結合して転写を抑制しているのか、それとも間接的に転写を抑制しているのかを解析する。
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