2018 Fiscal Year Annual Research Report
1970年代の教育実践における教師性批判の展開:「教師―子ども関係」を再構築する
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18J22097
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邊 真之 東京大学, 東京大学大学院教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 教育実践史 / 教師性 / 教師―子ども関係 / 子ども / 戦後 / 近代学校批判 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、戦後日本の学校教育の転換期にあたる1970年代における教師による教師性批判の展開を、教育実践に着目して明らかにすることである。先行研究では80年代以降における教師性の揺らぎに注目してきたが、本研究は70年代における教師による教師性の組み替え(教師の権威性と専門性への批判と模索)の実践・思想に着目することを通して、1970年代の教育史像を描き直すことを目指している。また、本研究は、現代の学校改革において重要なトピックである「教師―子ども関係」の再構築に資する知見を得ることにも取り組む。 研究計画の1年目にあたる2018年度は、大きく以下の3点の成果をあげることができた。 ①基礎的作業として、本研究とかかわる教育実践・教育運動に関する史資料調査・聞き取り調査を実施することができた。とりわけ、公立図書館にはほとんど所蔵されていない史資料(実践記録やミニコミ誌等)を中心的に収集し分析することができた。また、先行研究や関連文献等の充実した調査も実施できた。 ②子どもの「障害」の問題から教師性の捉え直しを試みた教育実践・運動に着目し分析を行うことができた。当時主流にはなりえなかったものの、「障害児」の通常の学級からの排除という観点から教師性が問い直されようとしており、「共生教育」的価値から新しい教育実践論・教師論が語られていたことが明らかになった。 ③教育実践における「評価」問題と教師性批判の展開の関連を問う視座から、教育雑誌の比較・検討を行った。「評価」の教育問題化には、教育実践のミクロ・ポリティクスの発露として「評価」を捉える契機があったこと、70年代初頭が教育言説・教師言説の分岐点となっていた可能性を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の期待通りに研究を進めることができた。まず、研究の基礎となる聞き取り調査や史資料収集を充実して実施することができた。具体的には、聞き取り調査を複数回にわたり実施することができたほか、図書館等には所蔵されていない貴重な史資料を貸借・閲覧することができた。 また、70年代における「評価」問題と教師性批判の展開という観点から教育雑誌を比較・検討した成果を日本教育学会のラウンドテーブルで報告することができた。このほかにも、本研究の複数の大きなテーマについてもそれぞれ調査・分析を実施できた。これらについては2019年度中に学会・研究会での報告や研究論文の投稿を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題は要約すると以下の3点である。 ①引き続き基礎的作業である史資料調査・聞き取り調査を実施していく。 ②2018年度の成果をふまえて、主に反「教授」の視点からの教育実践の編み直しに焦点を当てる。教えることの問い直しを教師自身がどのように展開したのかを探ることを通して、「教師―子ども関係」の模索が教育実践においていかに立ち現われようとしていたのかを明らかにする。 ③60年代から70年代にかけての連続した時間軸のなかに教師性批判を位置づけ、60年代の時代状況と対比させることで、70年代における教師性批判の展開の特徴(教師性批判の萌芽の誕生とその後の多様な展開)を検討する。そこで、60年代初頭から活動していたグループに焦点を当て、子どもの「実態」の調査が近代学校批判と教師性批判をいかに準備したのかを明らかにする。 これら3点の研究課題を通して、現在の教育実践や学校改革における「教師―子ども関係」を理論的に再構築する端緒を作っていきたい。
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