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2018 Fiscal Year Annual Research Report

想像界概念を軸としたジャック・ラカンの精神分析思想の変遷についての研究とその応用

Research Project

Project/Area Number 18J22163
Research InstitutionKyoto University
Research Fellow 山崎 雅広  京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
Project Period (FY) 2018-04-25 – 2021-03-31
Keywordsラカン / クロソウスキー / 精神分析学 / 精神病理学 / 病跡学
Outline of Annual Research Achievements

本研究は、1)従来ラカン研究において等閑視されがちであった「想像界」(イメージや身体に該当する人間の心的次元のひとつとしてラカンが設定したもの)概念が近年、最後期ラカン理論への注目に伴って再評価されていることを背景としながら、この概念を軸に、ラカンの精神分析理論の変遷を、30年代から晩年にわたって追跡し明らかにすること、2)それによって得られた人間の病を読むための解読格子を、フランスの思想家クロソウスキーへと応用し、病と作品との関係について研究する分野である病跡学への貢献をなすこと、の二点にその目的がある。
1)について。ラカンの場合、晩年のテクストが初期のテクストに対する応答になっているケース等もあり、昨今の研究状況を鑑みるに、成果をあせり、一部のセミネールや著作だけを読んでラカン全体についてなにかを断定的な調子で述べるのはよくないだろう。まして申請者は理論的変遷を軸として研究をするものであるから、この点は強調しておく必要があるし、着実かつ地道な努力によって愚直にテキストと毎日向き合うことがもっとも重要であるだろう。かくして、1)の点を達成するには、すべてのラカンのテクストへ十分な目配りが必要であり、この目的に向かって、30年度は十分な読解を行うことができたと判断する。
2)について。クロソウスキーの研究は、重要な部分がラカン派の研究者によって行われてきた経緯がある。こうしたものはラカンについて言及している部分はあるが、言及されている時期のラカンの議論をおさえておけば理解できるので、ラカンの全体像を把握しておかなくても対処のできる応用の方がとりくみやすいという逆説的事態が生じる。実際、30年度前半には、ラカン派の先行研究の批判を盛り込み、病と作品についての新たな関係を構想しようとする野心的なクロソウスキー論を雑誌に載せ発表し、さらに年度中頃に二本論文を投稿したのである。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

30年度は二本のクロソウスキー論を投稿した。研究の進捗はその内容と切り離しえないのだから、まず、この論文の骨子を記すことから書きはじめたいと思う。ラカン派において、クロソウスキーの諸作品に頻出する窃視的側面は、「去勢の否認」によって定義される倒錯という病理と関係づけ了解されるが、クロソウスキーにおいては、こうした窃視的まなざしが見るものが常に見られ、見られることすら望むという強迫神経症的システムを賦活化させる目的で「使用」されており、わたしはまず、先行文献を批判し強迫神経症ということを主張するとともに、この「使用」ということに独自の名前を与えようと試みた。この作業は、精神病理学や精神分析のみならず、哲学の方面からの知識を動員しつつ行われたが、クロソウスキーを読んだときに、わたしがなにか「つかんだ」というときの感覚をまだ最大限十分に、言語的に分節できたとは思わない。おそらくこの取り逃がしの構造それ自体が、クロソウスキーにおいて重要なのだというのはわかる(おそらく、詐病や仕掛けのようなものが働いて、この取り逃がし自体がどこか仕組まれているのだ)。投稿された論文は修正要求がついて研究者の手元に返ってきているところである(修正要求を検討の上、今年度中に再投稿されることになるが、この際、もう少し検討を加えておきたい)。
30年度はおおむね上のような成果を得たが、これは立てた目標にとり十分であるとわたしは判断する。一点だけ、ラカンのテクスト読解が思っていたよりも進まないということが難点としてあるが、これは後のテクストを読んでいると、それに対応した時間的に前のテクストの記述が気になって、また戻って読み返して……というような、ある意味では「健全」な人文学研究の性質に由来したものなので、それほど心配するにあたらないと思われる。
以上より、研究の進捗状況は好ましいと判断するものである。

Strategy for Future Research Activity

ひきつづき、ラカンのテクストに地道に向き合いつつ、クロソウスキーのテクストについても一字一句読んでいくことは昨年度と同様であるとして、おそらく考えねばならないのは、博士論文執筆にあたって、どの点をより重視していくか、ということであろう。それについて以下、若干記しておきたい。
研究者は現在、クロソウスキーについての博士論文を書こうと考えているが、現在までの研究は、彼のニーチェに対する関係、とりわけ「永劫回帰」概念読解に関連した箇所に主眼をおいてきた。研究者は、クロソウスキーを読解するにあたり、ニーチェの模倣という点だけ見れば、かなりの部分がクロソウスキーにおいて説明がつくのではないか、と考えてきたが、一連の研究を発表して自分の中で整理がついたこともあり、この方法の限界についても気づかされることになった。具体的には、「永劫回帰」によって「この私」がかつて「同じ」「永劫回帰」を味わった「別の」「私」であることからして、ニーチェが自我同一性を失ったとするクロソウスキーの読解を、彼がそのままなぞるようにして、自己を「作為的に演出」していたことはわかるし、この演出に対して、その構造をいかに分節しようと、読者が常にだまされる位置におかれてしまう、というのもおおむねわかる。だが、こうした自我同一性の壊乱がなぜ、精液や少年愛といった倒錯的な表象を伴うのか、ということについては、ニーチェからだけではわからない。
いまその解決策として考えているのは、クロソウスキーにおけるフーリエの位置ということであり、現在フーリエの著作を読解中であるが、これが今年度、とりわけ持続的に求められるだろう。クロソウスキーにおける倒錯的表象は、たしかに目を背けたくなるような光景が展開されることもあるが、どこか「愉しげ」でもあり、この点について、特にフーリエという視角から考えていきたいところである。

Research Products

(2 results)

All 2018

All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results) Presentation (1 results)

  • [Journal Article] クロソウスキーのニーチェ解釈の諸特性について――ニーチェ病跡学への寄与――2018

    • Author(s)
      山﨑雅広
    • Journal Title

      日本病跡学雑誌

      Volume: 95 Pages: pp.43-57

    • Peer Reviewed
  • [Presentation] クロソウスキー空間――強迫神経症と自我なき思考――2018

    • Author(s)
      山﨑雅広
    • Organizer
      第65回日本病跡学会

URL: 

Published: 2019-12-27  

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