2018 Fiscal Year Annual Research Report
食肉目動物の化学物質ハイリスクアニマル決定因子としての解毒機能解明
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18J22336
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
近藤 誉充 北海道大学, 獣医学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 環境化学物質 / 野生動物 / 化学物質代謝 / 鰭脚類 / 食肉目動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
人間社会の急速な発展の裏で、環境化学物質は広範にわたる野生動物に影響を与えている。化学物質に対する“ハイリスクアニマル”を決定づける要因の中でも特に化学物質の感受性に関わる“解毒反応”の種差は、野生動物種の化学物質ハイリスクアニマルの特定に欠かせない要素である。 前年度までに解毒酵素のうちUGT(グルクロン酸転移酵素)活性がアザラシ科を含む鰭脚類で非常に低いことを報告した。SULT(硫酸転移酵素)はUGTと基質特異性を広く共有することが知られており、UGT活性が低い動物では代償的にSULTの活性が高い可能性が考えられ、化学物質解毒能の解明においてSULTの情報は不可欠である。そこで本年度はSULTの遺伝子性状およびin vitro酵素活性を解明した。 本研究よりSULT代謝に野生哺乳類で大きな種差がみられた。特に鰭脚類では、エストロゲン代謝に重要な分子種のSULT1E1を欠損しており、in vitro活性も低いことを明らかとした。この結果は鰭脚類がSULT1E1用いた解毒を行えず、多くの化学物質に対して低解毒能を持つことを示唆している。さらに内因性代謝に重要な酵素のため、食肉目でエストロゲン代謝経路に大きな種差がある可能性が示唆された。これらの結果は野生動物の環境化学物質に対する感受性を推定する重要な知見になるとともに、哺乳類のエストロゲン代謝における新たな比較生物学的知見を与えた。 また本年度は野生動物でのiHep(induced hepatocyte-like cell)細胞誘導に使用する皮膚線維芽細胞の採取を精力的に行った。特にヒグマ、ツシマヤマネコ由来の皮膚線維芽細胞の培養に成功しており実験に供試する準備が整っている。同時にネコ線維芽細胞由来のiHep細胞の誘導を試みた。ネコ由来誘導因子及びマウス由来誘導因子を用いて誘導条件検討を行っており、今後も継続予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予定通り研究を進めている。特に食肉目動物での化学物質解毒機能解明のために本年度は硫酸抱合酵素(SULT)に着目した研究を中心に行った。遺伝子性状解析やin vitro解析等により、特に鰭脚類動物では、エストロゲン代謝に重要な分子種であるSULT1E1が遺伝的に欠損しており、in vitro活性も非常に低いことが明らかとなった。このことから鰭脚類動物がSULT1E1用いた解毒反応を行うことができず、多くの化学物質に対して高感受性を示す可能性を示唆する重要な知見を得られた。さらに、この結果よりエストロゲン代謝における食肉目動物内での種差が大きい可能性があるという、比較生物学的な新たな知見を見出している。 また解毒機能の新規評価法の確立のためのiHep(induced hepatocyte-like cell)細胞の誘導実験に関してはネコ線維芽細胞を用いたiHep細胞誘導に着手しているが、成功には至っていない。しかし、今後の野生動物でのiHep細胞への誘導に必要な線維芽細胞をツシマヤマネコ、エゾヒグマより誘導、保存に成功しており、実験に供試する準備が整っている。 また、SULT機能解析に関する研究結果を元に学会で報告行っており、国内学会で3度、国際学会で1度の発表を行い、2つの発表賞を受賞している。 上記のことより、本年度の研究はある程度の進展があったものとして判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までにUGT(グルクロン酸転移酵素)及びSULT(硫酸転移酵素)での各食肉目動物における化学物質感受性に関与しうる分子種の同定を行った。今後の研究では予測された食肉目の感受性に関わるP450, UGT, SULTの重要分子種のタンパク質発現系を確立し、in vitro活性試験を行うことで各分子種の基質特異性を解明する。基質は新鮮肝のin vitro解析と同様のものを用いる。発現系には酵母発現系(Saccharomyces Cerevisiaeなど)や細胞発現系(HEK293Tなど)を用いる。 またiHep細胞の誘導実験では誘導効率上昇のため胎児期肝発生段階に必要な因子を用いてスクリーニングを行い、誘導効率化に重要な最適因子の同定を目指す。さらには、細胞の3次元培養や培地の選定など(OSM やITS、Dex の添加など)の外的環境因子のスクリーニングを行い、最適な培養条件を確立することで“種の壁“を超えたiHep細胞誘導を目指す。ネコでのiHep細胞誘導効率向上後、ネコiHep細胞のマイクロアレイを用いた遺伝子発現量の網羅的解析を行う。また、各薬物代謝酵素活性を測定し、肝細胞様細胞としての性質を評価する。さらには肝臓の解毒酵素画分とiHep細胞の酵素活性を比較し、解毒機能評価への応用実現性を評価する。
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Research Products
(4 results)