2019 Fiscal Year Annual Research Report
ドゥルーズにおけるライプニッツ受容:その意義と背景
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18J22359
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
飯野 雅敏 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ドゥルーズ / ライプニッツ / 『差異と反復』 / 個体化 / 包み込みの中心としての他人 / 解決可能性の場 / 表現 |
Outline of Annual Research Achievements |
初期ドゥルーズの主著『差異と反復』においてライプニッツ哲学が大きく関連する問題系は二つある。2018年度はそのうちの「〈理念〉論」についての分析を終えたため、2019年度はそれに続く「強度=個体化論」の分析を進め、『差異と反復』の哲学体系全体における強度=個体化論の位置付けを明らかにすることができた。以下にその摘要を記す。 『差異と反復』の存在論的体系にあって、経験的存在者の様態を規定するのが超越論的〈理念〉であるのに対して、それを具現化可能な状態へと移行させる超越論的力=エネルギーが強度である。ドゥルーズはこの両者の関係について、「表現」というライプニッツ的な概念を借用し、「強度は〈理念〉を表現している」とする。ライプニッツにあって、モナドが世界全体を含んでいることを指すこの概念の含意(本性を異にするもの同士の不可分な関係、普遍を含む特殊、ある固有で唯一無二の視点からの世界の局限[表現の明晰ー混濁性])を豊かに活用しつつ、ドゥルーズは特殊形而上学の対象となる三つ組(「神」、「自我」、「世界」)を根本的に覆す新たな形而上学(絶えず差異のみをもたらす「永遠回帰」の運動としての存在論)を構築している。そして、この永遠回帰の存在論にあって、まさに個体化の過程こそが、①神に代わってこの運動の永続性を保証する内在的原理であり、②超越論的〈理念〉の境域におけるカオスモスから、経験的世界というコスモスを出来させ、③世界と自我の同一性を絶えず破壊し、刷新する契機であることが明らかになった。また、個体化の概念に関連して、従来分析の対象になることのほとんどなかった「解決可能性の場」、「包み込みの中心」及び「他人」の概念についてもその意味するところを明らかにできたと言える。以上の成果については、日仏哲学会会報『フランス哲学・思想研究』に論文としてまとめたものを投稿し、現在査読審査中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、『差異と反復』における個体化の概念の詳細な分析と、この概念の形成の過程におけるライプニッツ哲学の果たしている役割を明らかにすることを目標とししていたが、いずれも文献学的に満足できる水準の結果を伴い達成されたと言えるため。また、以上の研究成果を簡潔かつ過不足なくまとめ、学術論文として発表する用意ができているため。ただし、「当初予期していなかったこと」として、2020年3月に本研究課題の成果についての発表を予定していた日仏哲学会春季大会が、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため中止されたことが挙げられるため、「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2018~19年度は、ドゥルーズの初期の主著『差異と反復』を対象として研究を進めてきた。この過程で、後期のライプニッツ論である『襞――ライプニッツとバロック』に文脈と意義を変えつつ継承されている概念やモチーフが少なからずあることに気づかされた。2020年度は、『襞』におけるこのような諸概念の一連の展開・意義の変遷を正確に把握するために、この著作全体の企図を、1980年代までのライプニッツ研究と照らし合わせつつ浮き彫りにしていく。またこの著作の独自性を、①ライプニッツ解釈史、②ドゥルーズ哲学の進展史の二つの水準で明らかにし、ドゥルーズにおけるライプニッツ受容という本研究の大きな問いに一応の答えを与えられるようにしたい。
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