2018 Fiscal Year Annual Research Report
フランス大衆科学小説におけるガストン・ド・パヴロフスキーの思想の全体像の解明
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18J22570
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 正尚 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | フランス文学 / 科学雑誌 / TEI / 4次元 / ガストン・ド・パヴロフスキー |
Outline of Annual Research Achievements |
1923年版の『四次元郷への旅』はTEIマークアップによる翻刻を完了し、1912年版と1923年版の異同を正確に比較することが可能となった。現在、章題の変更と追加、単語単位の変化などをすべて追跡することができる。 また、修士論文の一部を取り上げ、「19世紀後半のフランスにおける雑誌の多様化と科学小説への影響」の発表を行った。文芸誌や文化雑誌・新聞の研究が進んでいる一方で科学小説や科学雑誌の研究が文学研究ではほとんど行われていない。しかし、文学者の多くがそうした科学雑誌に触れていたことが一般に知られている。本発表では、19 世紀末の新聞や雑誌を政府による検閲・ジャンルの多様化・印刷技術の変化から紹介し、科学啓蒙雑誌の登場と普及までを総覧した。最後に、科学啓蒙雑誌や新聞の連載科学記事をとりあげ、科学小説や文学作品一般における科学表象について論じた。なお、この課題の一部として、「フランスの近未来戦争小説について──普仏戦争以後の文化と科学技術の観点から」を発表した。この発表ではGeorges La Faure のMort aux Anglais!で描かれた架空のテロ事件の背景にある科学技術の表象が当時の人々の国家関係や国際経済の理解を反映している点ついて論じた。 デジタル・ヒューマニティーズの理論的研究として、「文学研究を総合的に把握するためにワイスバーグのモデル論の応用は可能か ──計量的アプローチの位置付けをめぐって」を論文雑誌『言語態』に投稿したものの、論文掲載には至らなかった。論文では、人文学研究者から向けられたデジタル・ヒューマニティーズ批判に対して応答し、ワイスバーグの提唱するモデル論を文学研究にあてはめて分析することで、統計学や認知心理学を援用した文学研究と従来の文学研究の対立を解消するよう試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、研究対象作品の特定の形式に従った電子化を完了し、詳細な複数コーパスの比較が可能になる準備を整えた。これは研究計画で研究員が主張していた重要な課題の1つを完了したものとみなせる。また、口頭発表を2回行い、複数の観点から研究対象にアプローチを試みた。先行研究の少ない作家の研究は非常に困難なので研究対象へのアプローチを様々な角度から検討すべきである。その点、口頭発表という議論の場に参加したことによって、より多くの研究者からアプローチが批評され、考察が深まったと考えられる。さらにアウトリーチ活動も積極的に行なっている。以上より、おおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
1912年版と1923年版の『四次元郷への旅』の異同を整理した表を作成する予定である。また、一般的に言及されているような19世紀末の精神医学の普及と狂気の描写ではない、ほかの科学的知識を背景とした小説(非ユークリッド幾何学や原子論など)を十分に取り上げることができなかった。この論点は『四次元郷への旅』の文学史的位置付けを考える上で重要であり、来年度も継続して取り組む。
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Research Products
(2 results)