2020 Fiscal Year Annual Research Report
アリストテレスの運動論――初期ハイデガーによる解釈を手がかりに――
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18J22584
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
武 育実 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | アリストテレス / ハイデガー / 新カント派 / 自然学 |
Outline of Annual Research Achievements |
アリストテレスの運動論が前提としている、実践と観照の理念を初期ハイデガーの講義録を手がかりに解明するという本研究の目標は、前年度の研究から明らかになった、ハイデガーの新カント派との対決という文脈から再度遂行された。 アリストテレスは観照を、実践という振る舞いからのある種の有機的な発展として理解しているのであるが、このような観照の概念が、必ずしも明確に意識されたわけではないにせよ、哲学という思考様式をその後も規定し続けた。アリストテレスの運動論はこのように哲学の一つの始まりということができるのであるが、本研究はこの始まりの意義を、まさに哲学の終わりというべき19世紀における哲学の同一性危機との比較のもとで理解し直した。すなわち、ドイツ観念論の崩壊と自然および文化の領域における実証諸科学の成立(これら諸学は内容的にも、歴史的にもアリストテレスの体系の否定と言える)、またそれに続く認識論としての哲学の復興の試みという趨勢(新カント派)の中でハイデガーのとった独自の立場と、その際アリストテレスがいかに彼の導きの星となったのかという経緯と辿り直すことで、哲学の始まりとしてのアリストテレスの運動論の意義を明らかにした。 本年度の後半ではハイデガーの初期のこうした苦闘が、時に秘教的とも称され、今なおくみ尽くせない影響を持つ彼の後年の思索の中に、様々な形で反響していることをも確認した。それによってハイデガーのアリストテレス解釈という現代思想の始まりを画する出来事、あるいは究極的にはアリストテレスその人が我々の時代のアクチュアルな議論に対して持つ意義を、ハイデガーという経路を通じて検討する作業が着手された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の当初の目標を、「研究実績の概要」に記載した形で達成したため。
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Strategy for Future Research Activity |
アリストテレスの運動論の意義を、後期ハイデガーやそこから由来する様々な主題というより広範な文脈からも再検討する。同時に今年度の研究の背景になった19世紀の哲学の同一性危機がすでに一定の仕方で古代哲学に内包していた経緯をも調査する。これまでは哲学の始まりを哲学の危機から捉え直そうと試みてきたわけだが、この危機は始まりの中にすでに含まれていたのである。このような事情から、再び研究はハイデガーではなく、アリストテレス自身のおかれた歴史的文脈に焦点を当てることになる。運動の問題に関して、彼がイオニアの自然哲学やエレア派、そして特にプラトンと悲劇作家ととり結んだ豊かな対抗関係が問題となる。だがそのためにハイデガーの重要性は減ることはなく、むしろ彼が常に探求の同伴者としたヘルダーリンやヨルクとともに一層緊密な形で問いの中に組み込まれていく。
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