2019 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカにおける作文教育の検討:技能教授と生活表現の統合
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18J23194
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森本 和寿 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ライティング教育 / 作文教育 / 自己表現 / アメリカ合衆国 |
Outline of Annual Research Achievements |
米国では19世紀後半に大学の大衆化に伴う学生の増加と多様化が進んで以降、大学初年次におけるライティング教育の研究がなされている。大学の大衆化・多様化に応答する形で、従来の修辞学(rhetoric)研究に影響を受けながら、カレッジにおけるライティングを主な対象とする作文法(composition)がひとつの研究領域として確立されてきた。大学におけるライティング教育では、レポートや論文の書き方についての形式や慣習を体得する訓練、すなわちアカデミック・ライティングと呼ばれるものが主流とされている。米国においてもアカデミック・ライティングの伝統は根強いが、米国ライティング教育の射程は必ずしもこれだけに留まるものではない。米国のライティング教育は、伝統的な修辞学の流れをくむ教養主義(current-traditional rhetoric)、社会において有為な人材となることを目指す社会的効率主義(social efficiency)、個人の思想・感情を語ることで個人の主体化を目指す表現主義(expressivism)の3つの潮流をその源流としている。特に表現主義は、大学の大衆化・多様化に呼応して、「アカデミック・ライティング」とされるものの射程を広げ、学術的な場において民主主義主体の育成をも含む、個人の主体化を目指してきた。申請者は本年度の研究において、表現主義のライティング教育の中心的な担い手であったピーター・エルボウ(Peter Elbow)が作成した大学初年次学生用ライティング教科書の分析を通して、表現主義が具体的にどのようなライティング教育を行ってきたのかを検討し、表現主義が個人を社会化し得ていたのかを明らかにした。この内容は「米国大学初年次における表現主義に基づくライティング教育:ピーター・エルボウの理論と教科書の分析」(『教育方法学研究』)として論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は学術論文4本(うち査読あり1本)、学会発表4回、雑誌記事2本、翻訳1本に取り組んだ。特に「研究実績の概要」欄に記した表現主義に関する論文は、本件研究課題に深く関わるものであり、ライティング教育に関する実践的検討が認められたものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は①ライティング評価と人種、②ライティング教育の諸潮流の2つのテーマで論文を書くことを予定している。これまでの自己表現に着目した研究成果に基づきつつ、さらに自己表現を通した社会的実践がどのように展開されたのかを、反人種差別主義の立場から検討すること、ならびにライティング教育の諸潮流のなかでこのような動きがどのように定位されるのかを明らかにすることを目指す。
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