2018 Fiscal Year Annual Research Report
Spatiality of public housing in the urban renewal
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18J23311
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
石川 慶一郎 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 公営住宅 / 住宅政策 / 高齢者 / 東京 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦後日本の住宅政策の3本柱であった公営住宅、公団住宅、住宅金融公庫に関する諸制度は、1990年代後半以降の一連の住宅政策改革のなかで大幅に見直された。行政から低所得層に直接供給される公営住宅に関しては、実質的な戸数削減が法的に可能になるとともに、戸数抑制が方針として打ち出された。また、入居可能世帯の所得制限を厳格化し、公営住宅入居者のカテゴリー化が促進されるようになった。こうした中、公営住宅の集中地域における高齢化および独居化が社会問題として認識されるようになっている(吉川 2010; NHK「無縁社会プロジェクト」取材班 2010)。NHK「無縁社会プロジェクト」取材班(2010)によれば、公営住宅に独居老人が増加する理由は、同居人との離別・死別、そして社会全体の生涯未婚率の上昇のためだという。先行研究では、実際に公営住宅の居住者特性が分析されており、公共住宅団地における若年者の転出と独居老人の転入増加が指摘されてきた(由井 1999; 久保園ほか 2010; 吉川 2010)。しかし、公営住宅の入居に住宅政策が与える影響は明らかにされていない。そこで本研究は、東京都区部の公営住宅に独居老人が集住する過程を明らかにするとともに、その要因を住宅政策から検討することを目的とした。 分析結果から、公営住宅政策により特に単身高齢者が公営住宅に優先的に入居するようになっていることが明らかとなった。また、立地や設備の点で若年世帯のニーズに合致するような公営住宅が供給されているとはいえない実態が明らかとなった。これらはいずれも、公営住宅に市場を補完させ、困窮者のセーフティネットの役割のみを担わせる2000年以降の国の「市場重視」政策のためと考えられる。こうした国の政策の結果として、公営住宅が集中する足立区のような外縁部では、高齢者、特に独居老人の集住地域が形成されているといえるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、東京都における公営住宅政策と公営住宅の住民特性について研究を進めてきた。公営住宅入居者の空間的な分布と入居者の属性については、おおよその結果を得ている。 空間的な分布について、公営住宅は足立区や江東区に集中しており、こうした公営住宅の集中地域では建て替えが実施されていない老朽化した公営住宅がいまだ数多く残存していることが明らかとなった。また、都の議事録の分析から、建て替え後の都営住宅には単身者向けの間取りの住戸が多くなるため、都営住宅ストック全体に占める単身者向け住戸の割合が増加していることが明らかとなった。都営住宅の募集住戸の分析から、特に2000年以降には、一般募集に占める独居老人向け住戸の募集の割合が高いことも明らかとなった。 入居者の属性については、国勢調査個票データの町丁別の集計結果から、東京都区部において独居老人は都営住宅が集中する地域、具体的には足立区や江東区の特定の地区に集住していることが明らかとなった。都営住宅の新規入居者をみると、特に2000年以降には転入者に占める独居老人の割合が増加していた。また、応募倍率の分析およびインタビュー調査の結果から、都営住宅に対する独居老人とファミリー層のニーズは異なり、独居老人の方がより経済的理由により入居を希望する傾向にある一方、ファミリー層の方がより選別的に応募する傾向にあることがわかった。また、1970年代に都営住宅に入居したファミリー層のなかには、都営住宅を持ち家の代替として意識していた者もおり、当時の公営住宅がファミリー層のニーズを全く満たしていないわけではなかった。一方、現在のファミリー層にとって都営住宅は、設備の古さや手狭であるなどの理由から、彼らのニーズを満たしているとはいえなかった。ただし、制度が入居者を規定する側面の強い公営住宅において、住民特性の地域的差異は必ずしも明瞭ではなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、1990年代後半以降の都心部の人口回復を背景とした社会集団の居住分化について、公営住宅を含む住宅の違いに着目して検討していく。これにより、公営住宅の供給者と入居者についての考察だけでなく、公営住宅周辺の住民や、周辺地域への住宅供給者についての考察を加え、より多角的な視点から公営住宅の存在を捉えることを目指す。研究方法については、データとして用いてきた国勢調査の個票データを引き続き使用し、対象を公営住宅入居者以外に拡大して分析する。あわせて、新たに国勢調査の調査区地図を用いて、公営住宅の周辺地域における居住分化の様相について分析する。 前年度は独居老人の入居プロセスに焦点を当ててきたが、2019年度は公営住宅における外国人の集住についても検討する。近年、特に大都市圏郊外の公的住宅において外国籍入居者の増加が顕在化している(稲葉 2008; 安田 2019)。外国人のセグリゲーションについては、日本においても豊富な研究蓄積があるが、公的住宅における彼らの居住実態を都市圏全体というスケールで分析した研究はない。そこで、東京大都市圏を対象として、公的住宅に入居する外国人の空間分布を明らかにするとともに、その要因を住宅政策から検討する。
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Research Products
(2 results)