2018 Fiscal Year Research-status Report
他者の記憶のアーカイブ――戦後日本社会における従軍体験テクストに関する基礎的研究
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18K00325
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
五味渕 典嗣 大妻女子大学, 文学部, 教授 (10433707)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日中戦争 / アジア太平洋戦争 / 戦争記憶 / 従軍記 / 護国神社 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は「研究の始発期」と位置づけ、研究代表者のこれまでの研究実績を本研究課題の基盤として位置付けなおし、その内容を発展・深化させていくための土台作りを中心的に行った。具体的には、2018年5月に単著『プロパガンダの文学 日中戦争下の表現者たち』(共和国)を刊行、日中戦争期の同時代に語られていた戦争・戦場の表象と、そこで文学・文学者が果たした役割について検討した。さらに、この単著にかかるブック・トークや読書会に参加、歴史学・社会学、社会運動など、従来の文学・文化研究の枠組みにとどまらないさまざまな立場からの問題提起を受けとめて議論することで、本研究課題の現在的な意義を確認することができた。11月には日本人ブラジル移民の文学・文化活動を研究するエドワード・マック氏を招聘、川口隆行氏(広島大学)、高榮蘭氏(日本大学)と連携した国際ワークショップ企画に参画、従来必ずしも「文学」とは見なされてこなかった一連のテクスト群を、文学研究の立場から取り上げる際の課題と可能性について議論を深めた。 また、資料調査としては、8月に山梨県立図書館・甲府市立図書館、9月に大津市立図書館で戦時期・占領期の関係資料の確認・調査を行ったほか、10月には岩手県宮古市に出張、木戸雄一氏(大妻女子大学)とともに、徳冨蘆花が明治期の青年軍人の日記をもとに執筆した小説『寄生木』関係資料、ラジオドラマ台本等を実見、近代日本における地域と軍事、地方青年と戦争との関わりについて、新たな知見を得ることができた。あわせて、いくつかの道・県の「護国神社」の調査とフィールドワークを行うことで、それぞれの地域が、どの戦争の・どの場面を「記憶」し、どのような「顕彰」活動を行ってきたかについて、資料の収集と検討を重ねた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度は主に研究実施にあたっての方法的・理論的な検討と、関連領域の研究者との新しいネットワーク構築に主眼を置いた活動を行ったが、調査を行ったいくつかの図書館・資料館の所蔵資料の中から、研究の核となるテクストを確定することができなかったことは反省点である。また、研究代表者の所属研究機関異動のタイミングと重なったことで、年度後半の研究スケジュールの組み替えを余儀なくされたことも、研究の進捗に影響した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、昨年度に検討を重ねた方法的・理論的な検討を踏まえ、1940~1960年代に日本語で発表された従軍体験テクストの精査と分析に着手することで、昨年度の遅れを取りもどしたい。具体的には、異動先機関の豊富な図書館資料を活用するほか、昨年度に引き続いて、列島の各地域でそれぞれ集積された「戦争の記憶」にかかわる文集や証言集の集積と調査を進め、従軍体験・戦争体験の多様性と複層性とを具体的に考究することを目指したい。あわせて「護国神社」にかかわるフィールド調査・文献調査も進め、地域社会が過去の戦争をどのように語り・どのようには語ってこなかったかについて、さらに検討を深めたい。研究成果の発信も積極的に行っていく予定である。
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Research Products
(5 results)