2019 Fiscal Year Research-status Report
他者の記憶のアーカイブ――戦後日本社会における従軍体験テクストに関する基礎的研究
Project/Area Number |
18K00325
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
五味渕 典嗣 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (10433707)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 戦争記憶 / 対抗的記憶 / 従軍体験 / 日中戦争 / アジア太平洋戦争 / 表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、本研究プロジェクトの「展開期」として、以下の活動を行った。 (1)従軍体験テクストの整理と分析。2018年に刊行した単著『プロパガンダの文学』(共和国)での成果を踏まえ、1941年12月8日以降の戦場を描いた同時代の従軍体験記の分析から、「大東亜」の他者たちとのコミュニケーションの挫折の表象が、人種主義的な言説を召喚するメカニズムを検討した。また、1960年代~1980年代に公刊された日中戦争期・アジア太平洋戦争期の中国大陸での従軍体験を記述した回想記から、中国での暴力の記憶がどのように想起・表象されたかについて、基礎的な調査を進めた。加えて、地域における「対抗的記憶」を検討する事例として、栃木県の足尾銅山をめぐる記憶に注目、「加害の記憶」をめぐるポリティクスについて議論した。 (2)国内外の研究者との学術交流の推進。2019年10月には、福岡大学にて「若手韓国学セミナー」に参加、同じく10月には、台湾・淡江大の招聘で、大学院生を対象に、アジア太平洋戦争期の戦争文学にかかる特別講義を行った。12月には、コロキアム「Rethinking East Asian Literature in the Era of the Second Sino-Japanese War」で日中戦争期戦記テクストの表象の論理について報告した。2020年1月には、米国・ワシントン大学大学院にて、戦争文学・戦争記憶を取り上げた研究手法についての講演を行った。これらの機会は、学際的・国際的なスケールで「対抗的記憶」をめぐる研究対話を続けて行くことの意義を実感させるものとなった。なお、これら国内外の出張については、招聘先からの招聘旅費や学内の個人研究費等も活用し、科学研究費補助金の合理的かつ効果的な使用に努めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、研究代表者の所属機関異動と重なり、前半期は研究基盤の再構築に時間を費やすことを余儀なくされた。しかし、新たな所属機関である早稲田大学の充実した図書館施設や研究サポート体制を活用し、2020年1月までの段階では、おおむね予定していた研究調査を行うことができた。 ただし、2020年2月から3月にかけて予定していた国内での資料調査出張は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で断念せざるを得なかった。これについては、今後の状況を見定めながら、2020年度の研究計画に適宜組み入れていく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、研究プロジェクトの最終年度として、2019年度に行った学会発表の論文化を優先的に行うなど、主に成果の取りまとめと研究成果の発信に重点を置く予定である。新型コロナウイルスの世界的な流行のため、とくに国外との研究交流が制約されることは本研究課題にとって痛手ではあるが、2019年度までの研究交流によって培ったネットワークを活用し、オンライン上での研究会開催や研究上の意見交換を日常化することで、研究活動の継続・発展を図りたい。 また、2020年度は、研究分担者として参加した科研費プロジェクトが複数採択された。専門分野や、対象とする地域や年代を異にする研究者との交流を深化させ、新たなフィードバックを受けることで、本研究課題の問題意識をさらに深化させ、研究を次のステップへと進めていくための準備を整えたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の状況に対応し、2020年2月から3月にかけて予定していた日本国内での資料調査が難しくなったため残額が生じた。残額分については、2020年度の後半に行う日本国内での図書館・資料館調査での複写費として活用する予定である。
|
Research Products
(5 results)